近世イスラーム国家と多元的社会

期間 2014-2016年度
研究代表者 近藤 信彰(AA研)
AA研所員 黒木 英充,髙松 洋一,アフタンディル・エルキノフ
共同研究員 秋葉 淳,阿部 尚史,磯貝 健一,小笠原 弘幸,鴨野 洋一郎,木村 暁,後藤 裕加子,齋藤 久美子,澤井 一彰,島田 竜登,清水 保尚,多田 守,二宮 文子,堀井 優,真下 裕之,黛 秋津,守川 知子,山口 昭彦,和田 郁子

 歴史的にも多元的な社会を保持してきたイスラーム圏は、16-18世紀においては、オスマン朝・サファヴィー朝・ムガル朝という大帝国によって統治されました。当時の世界における先進国であったこれらの大帝国は、「柔らかい専制」などともよばれる柔軟な統治体制を持ち、多様な集団から構成される社会を巧みに扱い、この地域に平和と繁栄をもたらしました。この研究課題は、これらの帝国の統治体制と統治技術を文書史料等の原史料に基づいて比較検討し、その特質を明らかにすることを目的としています。
 近年、こうした近世イスラーム国家に関する研究は極めて盛んです。特に、文書史料等さまざまな新史料の発見、文書館の整備などにより、これらの国家の統治体制・統治技術に関する研究は、飛躍的に進みつつあります。しかし、多くの個別の成果が上がる一方で、専門分化が進み、個人では新史料や個別研究を把握するのも困難になっています。そして、個別の問題にばかり議論が集中し、全体像を把握することが難しい状況にあるのです。日本では、オスマン朝史、サファヴィー朝史はそれぞれ研究の進んだ分野であり、研究者の数も世界的に見れば多い方です。しかし、それぞれ別個の分野として行われており、相互の比較は必ずしも十分に行われてきませんでした。そこで、今、この分野の研究者が集まって、お互いの知見を交換するなかで、これらの研究の総合化や本格的な比較研究をはかることが求められていると考えました。
 一方で、イスラーム圏の前近代に関する歴史研究は、どちらかと言えばアラブ史など15世紀ぐらいまでの「中世」を中心にすえて叙述されてきました。しかし、これらの研究で作られた前近代のイメージは必ずしも後の時代に当てはまるものではありません。強力な常備軍と火器を備え、整った官僚機構を持っていた近世のイスラーム国家は、「中世」の諸国家とはさまざまな点で異なると考えられます。そもそも、研究に用いられる史料のあり方も大きく異なっています。この研究課題では「近世」を前面に押し出し、これらの帝国の統治体制と統治技術を前の時代および同時代の諸王朝のそれと比較、検討していきます。そして、これらの作業を通じて、近世イスラーム国家を、イスラーム圏の歴史ならびに世界史の上に、正当に位置づけることが目標なのです。
 また、今日、これらの地域の抱える問題の多くが、帝国の解体・分割と植民地支配に起因しています。その背景をより深く理解するためには、その前提となる近世の国家や社会の諸制度を知らねばなりません。現代を中心とする地域研究の視点からもこの研究は意義を持つと考えています。

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