2012年1月

レバノン週報(2012年1月23日〜1月29日)

シリアのアサド政権が反体制派に対する攻勢を一層強めている中、レバノンでは今週も様々な動きが見られた。シリア情勢の鎮静化を目指して、これまで仲介の労を取ってきたアラブ連盟は1月22日、アサド大統領からシャルア副大統領への2ヶ月以内の権限移譲や、反体制派を含めた挙国一致内閣の2ヶ月以内の樹立、早期の議会・大統領選挙の実施、同国内で活動している連盟監視団活動の1ヶ月(2月23日まで)の延長、といった内容を持つ新たな仲介案を提示した。これに対してマンスール外務大臣は翌23日に、「偏向している」との批判的見解を披露したが、レバノン政府は基本的に、アラブ連盟とは距離を置く「中立的な」立場を取ってきている。

故に、「反アサド」を掲げる「3月14日連合」勢力は、ミーカーティー内閣のこうした姿勢に対する批判を強めているが、他方で同連合に属するスンナ派組織「未来潮流」を率いるサァド・ハリーリー代表や、キリスト教組織「レバノン軍団」を率いるジャアジャア党首らは、シリアにおける反体制派の主要組織である「シリア国民評議会」との関係を強めている。また、先週のレポートで最近の言動を紹介したジュンブラートは今週、モスクワを訪問し、1月26日にラヴロフ外相と会見した。会談後の記者会見において、ジュンブラートはこれまでと同様、アサド政権の反体制勢力への弾圧措置を強く批判し、政治的解決が望ましいとの見解を明らかにしたものの、同政権の退陣までは要求しないスタンスを改めて鮮明にした。

なお、1月21日早朝には、レバノン人漁師3名が同国の領海内にいたにもかかわらず、シリアの巡視船によって臨検され、その過程で1名がシリア側の発砲によって死亡し、残り2名が拉致されたことは、先週のレポートで触れたとおりである。この件に関して、シリア側は27日に、ミーカーティー首相らレバノン政府関係者に調査結果を報告したが、その中ではレバノン人漁師らがシリアの領海内にいたとされており、3月14日連合所属議員らは早速に批判を行っている。

レバノン週報(2012年1月16日〜1月22日)

首都ベイルートの北20キロに位置するジュニエの街並み。

シリア情勢の先行きに対するレバノン内外からの関心が一層高まる中、国内ではドルーズ派主体の「進歩社会主義者党」を率いるジュンブラートの態度に、今週はこれまで以上に関心が集まった。「風見鶏」で名高いジュンブラートは、2005年2月のラフィーク・ハリーリー元首相爆殺事件を契機に形成された、「反シリア」を掲げる「3月14日連合」勢力の主要メンバーであったが、レバノン国会議員選挙直後の2009年8月に、同連合からの離脱を表明した。その後は、ミーカーティー内閣に閣僚を送り込んだように、「親シリア」の「3月8日連合」勢力と行動を共にすることもあったが、基本的には両連合からの距離を保ってきた。

ジュンブラートはこうした中、シリアのアサド政権の反体制勢力への弾圧措置を強く批判する一方、同政権の退陣までは要求しないスタンスを取っている。また、シリア(総人口は2000万人強)に居住している40万人程度のドルーズ派には、アサド政権との距離を置くことを求めているが、他方で同派出身の兵士や警官ら100名程度がこれまでに死亡したと言われる中、彼らに離脱を勧めているわけではない。更に、バッシャール・アサド大統領とは7ヶ月前からコンタクトを取っていないことを明らかにした上で、同政権と緊密な関係を有するロシアやイランに、シリアが内戦状態に陥ることを危惧する観点から、事態解決に向けた行動を取ることを要請している。

故に、ジュンブラートは「微妙な」立場を取ってきているが、他方で3月8日連合に属するシーア派組織「アマル運動」を率いるビッリー国会議長は1月20日、シリア情勢には関与しないことが賢明、との見解を披露した。また、同じく同連合に属するシーア派組織「ヒズブッラー」の幹部は22日、アサド政権崩壊を期待することは失敗に終わるだろう、と述べた。3月8日連合側は、キリスト教組織「自由国民潮流」を率いるアウン党首も含め、アサド政権支持であるが、3月14日連合側は同政権に対する敵意を剥き出しにしてきている。同連合の中核を成すスンナ派組織「未来潮流」を率いるサァド・ハリーリー議員は相変わらず、「安全上の理由」から国外(パリやリヤード)に滞在し、アサド政権批判を頻繁にツイッターで行っているが、レバノンの英字紙「デイリー・スター」は1月21日付の記事で、キリスト教組織「レバノン軍団」を率いるジャアジャア党首の、アサド政権が本年末までに崩壊するであろう、との見通しを報じた。

なお、1月21日早朝にはレバノン人漁師3人が同国の領海内にいたにもかかわらず、シリアの巡視船によって臨検され、その過程で1名がシリア側の発砲によって死亡し、残り2名が拉致された。翌日までに、生存者と遺体はレバノン側に返されたが、シリア政府筋は、同国の反体制勢力への武器密輸を阻止するための措置、と釈明している。レバノン・シリア国境では武器を含む密輸や、シリア国軍による時折の越境が行われている中、「内政不干渉」という名目の下、レバノン国軍を国境地帯に展開させていないミーカーティー内閣に対する批判が、ここ最近は閣内からも出ている。従って、今回の事件が同内閣の対応にどのような影響を与えるのか、関心のあるところである。

※ 写真:2012年1月撮影
首都ベイルートの北20キロに位置するジュニエの街並み。
地中海に面した海辺には、オシャレなシーフード・レストランなどが並び、レバノン内外から多くの観光客が訪れる。

レバノン週報(2012年1月9日〜1月15日)

レバノン内戦を今に伝える旧「ホリディ・イン」跡(中央の建物)。

グスン国防相(「3月8日連合」勢力に属するキリスト教組織「マラダ潮流」所属)はこれまで、シリアの反体制派に扮した「アル=カーイダ」のメンバーが、同国からビカア平原の村に入り込んでいる、との主張を繰り返しており、レバノン内で大きな関心を集めている。グスンはそこで、レバノン議会の「防衛」、「内務」、「地方行政」の各委員会で1月9日に証言を行ったが、シリア反体制派支持の「3月14日連合」勢力を納得させるには至らず、同連合の中核を成すスンナ派組織「未来潮流」に属するダーヒル議員は翌10日、グスンの辞任を要求した。グスン発言は、「外国によって武装されたギャング」がシリア反体制派の軸になっている、とのアサド政権の主張に合致していることから、3月14日連合サイドからの反発を招いているが、他方でミーカーティー首相やスライマーン大統領、同大統領の信頼が厚いシャルビル内務・地方行政相らも、グスン発言を否定してきている。

こうした中でシャルビルは1月11日、「レバノン国軍」のレバノン・シリア国境地帯への展開を、ミーカーティー内閣の閣僚として初めて要求した。昨年3月のシリアにおける反体制運動の開始以来、現内閣は「内政不干渉」という名目の下、同国境地帯で「シリア国軍」の発砲により数人のレバノン人が死傷しているにもかかわらず、レバノン国軍を展開させていないことから、3月14日連合は自国民保護の観点から批判を続けている。シャルビルはまた、帰属が曖昧な地点を多々有するレバノン・シリア国境の画定作業を行う必要性も示したが、同地帯ではシリア国軍がしばしば越境し、また武器を含む密輸が横行していることから、アル=カーイダの侵入の真偽はさておいても、何らかの対策を講じることが必要とされていよう。

ところで今週は予定通り、1月13日から15日にかけて潘国連事務総長のレバノン訪問が行われた。潘はスライマーンやミーカーティー、ビッリー国会議長など、レバノン政府関係者や政治家らとの協議を行い、更には南部ナークーラにある「国連レバノン暫定軍」(UNIFIL)本部も訪問した。政府関係者との協議ではとりわけ、UNIFILに対する攻撃事件が昨年は3件(5月、7月、12月)発生していることから、潘は安全対策の強化を求めたが、他方で滞在中には、シーア派組織「ヒズブッラー」の武装解除や、アサド政権に対する暴力行為の停止なども訴えた。これに対して、ヒズブッラーを率いるナスルッラー書記長は14日、シーア派の宗教行事の一つである「アルバイーン」に際し、武装維持を明言するなど、潘に対する敵対姿勢を誇示した。

なお、ラフィーク・ハリーリー(R・ハリーリー)元首相爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」の委任権限は、本年3月1日に失効することになっているが、潘は1月14日に行われたレバノン英字紙「デイリー・スター」とのインタビューにおいて、特別法廷の任務が2月29日までに完了しないならば、委任権限は自動的に延長されるだろう、との見解を述べた。レバノン特別法廷による裁判は開始されたばかりであることから、欧米諸国や3月14日連合も委任権限の延長を求めているが、同法廷の設置を定めた国連安保理決議1757号は、国連事務総長によるレバノン政府や安保理との協議の上での延長期間の決定を規定している。しかしながら、メンバー4人に対する逮捕状が出ているヒズブッラーはその延長に強く反対しており、同組織出身閣僚を有するミーカーティー内閣が今後どのような対応を取るのか、注目されるところである。

※ 写真:2012年1月撮影
レバノン内戦を今に伝える旧「ホリディ・イン」跡(中央の建物)。
内戦終了(1990年)から20年以上が経過した今も、ベイルートにはこのように放置されたままの建物が見られる。

レバノン週報(2012年1月2日〜1月8日)

「鳩の岩」。

レバノンにおいては今週も、同国における「アル=カーイダ」のプレゼンスをめぐる論議が続いている。グスン国防相(「3月8日連合」勢力に属するキリスト教組織「マラダ潮流」所属)はこれまで、シリアの反体制勢力に扮したアル=カーイダのメンバーが、同国からビカア平原の村に入り込んでいる、との主張を繰り返している。この発言は、「外国によって武装されたギャング」がシリア反体制派の軸になっている、とのアサド政権の主張に合致していることから、反体制派支持の「3月14日連合」勢力からの反発を招いているが、他方ではミーカーティー首相やスライマーン大統領、同大統領の信頼が厚いシャルビル内務・地方行政相らもグスン発言を否定してきている。

こうした中、マラダ潮流を率いるフランジーヤ党首は1月2日、グスンの見解を支持する旨表明した。フランジーヤはまた、ミーカーティーやスライマーンがレバノンにおけるアル=カーイダの活動に関する報告を受けていると主張し、更にはグスンやカフワジー・「レバノン国軍」司令官らに対し、情報開示を要求した。翌3日には、3月14日連合側がグスンに対する非難発言を改めて行ったが、同連合の中核を成すスンナ派組織「未来潮流」に所属する議員数名は、8日にビカア平原を訪問した。これは、レバノン議会の「防衛」、「内務」、「地方行政」の各委員会が翌9日に、グスンとの会談予定があることに関連していると思われるが、その議論の展開は関心を呼ぶことであろう。

なお、シリア情勢は「アラブ連盟」からの監視団派遣にも拘わらず、依然として混沌とした状況にあるが、シーア派組織「ヒズブッラー」は1月2日、レバノンに対する波及効果に警鐘を鳴らし、シリア内政に対する干渉を戒めた。しかしながら、未来潮流を率いるサァド・ハリーリー代表は、依然としてアサド政権の退陣を強く主張しており、8日にも同様な発言を行った。その一方、「風見鶏」で名高いジュンブラート・「進歩社会主義者党」党首は、徐々にアサド政権から距離を置いてきているが、3日の発言でも退陣要求までには至らなかった。

ところで、レバノンの英字紙「デイリー・スター」は1月4日付で、潘国連事務総長による13日からの3日間の同国訪問予定を報じたが、潘を「米国寄り」と見なしているヒズブッラーは今週末、訪問を歓迎しない旨表明した。レバノン南部に展開している「国連レバノン暫定軍」(UNIFIL)部隊も、当然のことながら訪問日程に入っているが、これまでのリポートで触れてきたように、南部ではUNIFILに対する攻撃事件が昨年は3件(5月、7月、12月)発生し、また11月末以降においては、イスラエルに対するロケット弾が発射された他、未発射のロケット弾が発見されている。何れも背景が特定出来ていないことから、ベイルートを含めて厳戒態勢が敷かれることになろうが、2009年5月におけるバイデン米副大統領訪問時の、首都における厳しい交通規制を経験している者としては、激しい渋滞に巻き込まれることは何としてでも避けたいところである。

※ 写真:2012年1月撮影
ベイルートの代表的な観光スポットである「鳩の岩」。
高さ20メートル強のこの岩から海に飛び降りることが、若者の「勇敢さ」を示す証であると言われているが、未だお目にかかったことはない。

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