2010年11月

レバノン週報(2010年11月6日〜14日)

11月6日の午前9時半過ぎに、8月の滞在以来2か月半ぶりにベイルートに戻ってきた。同国を取り巻く政治情勢はあまり変化しておらず、ヒズブッラーをめぐる問題が新聞紙面を賑わせている状況である。

今週はラフィーク・ハリーリー爆殺事件調査を巡り、その子息サァド・ハリーリーの内閣が崩壊するのではないか、との危惧が生じた。同爆殺事件に関しては、安保理決議に拠って樹立されたレバノン特別法廷が容疑者の訴追に向けた準備を進めているが、2009年5月の独「シュピーゲル」誌の報道以来、ヒズブッラー・メンバーが訴追されるとの公算が高まっている。こうした中で、ヒズブッラーを率いるナスルッラー書記長は一貫して、特別法廷の信用性を問題視する発言を行ってきている。というのも、同特別法廷は同爆殺事件を扱っている国連の国際独立調査委員会が収集した「証拠」に依拠して訴追準備を進めているのであるが、この「証拠」が基本的に、イスラエルのスパイ容疑で逮捕者を出しているレバノンの電話会社の通話記録や、同事件にシリアが関与したと当初は証言しておきながら、後にその証言を取り消した「偽証者」の証言に基づくものであるからである。ヒズブッラー側は、この「偽証者」の問題にサァド・ハリーリー首相が取り組まない限り、同内閣から閣僚を引き上げ、内閣崩壊に導くとのシグナルを送っていたが、スライマーン大統領の尽力もあり、このシナリオは回避された。

なお、11月11日にはナスルッラー書記長が演説を行い、レバノン特別法廷はヒズブッラーを貶めようとするイスラエルの思惑に添うものである、との従来通りの主張を繰り広げた。同特別法廷との協力関係を維持していきたいサァド・ハリーリーと、協力関係の解消を求めるナスルッラーとの対立の先鋭化は一先ず回避されたが、来週はどのような展開が待っているのであろうか。

レバノン週報(2010年11月15日〜21日)

レバノン特別法廷を巡る国内の対立状況は続いているが、レバノンにおける二大政治組織である未来潮流とヒズブッラーはそれぞれ、地域大国との強固な関係を維持している。「未来潮流」勢力は、ラフィーク・ハリーリー元首相の子息であるサァド・ハリーリー代表(首相)によって率いられており、ハリーリー家がサウジアラビアと密接な関係を有しているため、同国と緊密である。他方、ナスルッラー書記長率いるヒズブッラーは、結成の経緯からイラン、シリア両国と密接な関係にある。

こうしたことから、未来潮流とヒズブッラーが、とりわけラフィーク・ハリーリー爆殺事件調査を巡る見解の相違から対立状況を深めると、各組織の「後ろ盾」であるサウジアラビアやシリア、イランの関係・動向がレバノン情勢の展開を左右するものとして注目を集めてきた。7月末にはサウジアラビアのアブダッラー国王とシリアのバッシャール・アサド大統領が揃って、また10月半ばにはイランのアフマディネジャード大統領が、レバノンを訪問した。先週末には、サウジアラビアとシリアによる何らかの動きが今週に生じると報道される中、11月19日にはビッリー国会議長が両国のイニシアティブを歓迎する声明を発出したものの、21日時点では目立った動きは生じていない模様である。

他方でサァド・ハリーリー首相は11月15日から翌日にかけてモスクワを訪問し、ロシアからレバノンに対する武器供与の約束などを取り付けた。その主な内訳はMI24型ヘリコプター6機、T72型戦車31台、130ミリ砲36門であるが、他方で同首相はロシア最大の石油大手LUKOIL社の幹部と会い、レバノンに対する投資やトリポリの製油所の改修工事といった問題を話し合った。なお、イスラエルが2006年の「レバノン戦争」後に再占領したレバノン南部ガジャル村の北半分から撤収すると報じられたが、これに関しても現時点では動きが生じていない状況である。

レバノン週報(2010年11月22日〜28日)

今週は早々に、サァド・ハリーリー首相率いる未来潮流と、ナスルッラー書記長率いるヒズブッラーとの、レバノン特別法廷を巡る対立を緩和すべく、各組織の「後ろ盾」であるサウジアラビアとシリアによる外交活動が活発化しているとの報道が出た。こうした中で、11月24日から25日にかけてベイルートを報恩したトルコのエルドアン首相は「サウジ・シリア・イニシアティブ」に対する支持を表明したが、週末になっても具体的にどのような動きが取られているのか明らかにならなかった。他方、サァド・ハリーリーは27日から、3日間の日程でテヘラン訪問を開始したが、どのような成果を生み出すか注目されるところである。

なお、11月21日にはカナダのCBC放送のマクドナルド記者が、ラフィーク・ハリーリー爆殺事件に関する報道を行い、その中で2009年5月の独「シュピーゲル」誌の報道と同じく、同爆殺事件に際して使われたとする携帯電話のネットワーク網について言及しながら、ヒズブッラーの関与を改めて指摘した。更に同記者は、ハリーリー家と長らく親しい関係を築いてきたハサン内務治安軍総局情報課トップが、殺害に関した可能性をも指摘した。このCBC報道に関しては、レバノン特別法廷やサァド・ハリーリー、ヒズブッラーといった「関係者」全てが、同事件に関する調査プロセスを阻害するものとして一様に退けたが、今後もこうした「リーク報道」が出ることはあり得よう。

レバノン週報(2010年11月29日〜12月5日)

先週の11月27日から行われたサァド・ハリーリー首相のテヘラン訪問は、アフマディネジャード大統領やモッタキ外相、更にはハーメネイー最高指導者らとの会談を含み、29日に終了した。イラン側はこの訪問中、ラフィーク・ハリーリー爆殺事件を巡るレバノン各派の対立状況の解消を目指し、外交活動を展開しているサウジアラビアとシリアの動き(「サウジ・シリア・イニシアティブ」)を支持することを表明した。更には、レバノン国軍に対する軍事支援が、最終的にはヒズブッラーの戦力増強につながるとして、同支援に対する疑念が生じている米国の動きを睨み、イランのヴァヒード国防相は同国軍に対する支援をも表明した。具体的な支援に関しては詳らかになっていないが、今月半ばに行われたサァド・ハリーリーのモスクワ訪問に際して交わされた軍事支援の約束と相俟って、レバノン国軍の構成に今後どのような影響が出るのか、注目されるところである。

サァド・ハリーリーはテヘラン訪問後、その足でかつての「宗主国」フランスを訪問し、11月30日にはサルコジ大統領らと会談した。同大統領はレバノン特別法廷に対するフランスの支持を改めて表明したが、このように対立するヒズブッラーの「後ろ盾」であるイランを訪問すると同時に、父ラフィーク・ハリーリー以来の緊密な関係を維持しているフランスをも訪れたことが、レバノン国内の政治状況にどのような影響が出るのか、注目されよう。とりわけ、国内の対立状況を反映して、今月10日以来開催されていない閣議が再開されるか否か、或いはサァド・ハリーリーとナスルッラー書記長の「頂上会談」が実現されるのか否か、といった点が気になるところである。

なお、サァド・ハリーリーのフランス訪問は12月2日に終了したが、同首相はその後、リヤド経由でオマーンに向かい、5日まで同国に滞在した。サァド・ハリーリーの外遊中、スライマーン大統領は国内各派との会合を行い、対立状況の解消に向けて動いたが、このような国外・国内双方の動きは「肯定的な」相乗効果をレバノンにもたらすのであろうか。

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