2012年12月 サン・ドニで見た多宗教の共存

今年の11月、私は研究所の仕事でフランス領レユニオン島へ行く機会を得た。レユニオンはフランスの海外県として、公用語はフランス語、通貨はユーロ圏。だが場所はマダガスカル島の東の沖800キロであり、地理や気候的にはアフリカに近い。初めて行く南半球への旅とあって、期待に胸が膨らんだ。

インド洋を突っ切るようにして南下。島に着き、泊まったのは県庁のあるサン・ドニ市にあるこじんまりとしたホテルだ。大学と美術高校での国際会議の合間を縫って、市内や島の各地を見て回ることになった。半袖でも、動くと少し汗ばむような暖かさ。日差しの強さや蒸し暑さは、日本と中東の中間くらいで心地良い。真夏にあたる1月にはサイクロンが来ることもあるというが、その前のいい季節に訪れることができた。

17世紀にフランスが入植するまで無人島だったということもあり、移民で構成されているこの島の住民の顔ぶれは非常に多様だ。インド系、フランス系、中国系に加えて、近くのマダガスカルから働きに来ている人も多い。町を歩くとその様々な文化について、レストランや服飾店が並ぶ様子に目を奪われる。パンダの柄の中国雑貨屋の向かいはハラール認証の付いた南アジア系のレストラン、その先にはフランス風クレープ屋さん、ジェラート屋さん、お寿司屋さん、等々。

(サン・ドニの町並み)
(店で見つけたハラールのフォアグラ)

なかでも私の関心を引いたのは、警察署の近くにあるレバノン料理屋と、フランス最古というモスクの存在だ。どちらもホテルからほど近くにあるので、足を運んでみることにした。

レバノン料理屋はレユニオンの青空に似合う白い店構えで、半分がテラス、半分が屋内席だ。店はまだ比較的新しく、できてから数年しか経たないらしい。料理人のソニアさんは、ジュニエ近郊出身のマロン派キリスト教徒で、レバノンから直接こちらへ来たという。話しかけてみるとアラビア語が通じて、レバノンの話題に花が咲いた。店のメニューにはレバノン・ワインも数種類そろっている。お昼ご飯を食べに行き、メインの羊料理のほかに、ムタッバル(ナスの胡麻ペースト和え)やワラクイナブ(葡萄の葉でのご飯の包み炊き)など中東料理を満喫することができた。

(レバノン料理屋)
(ソニアさん)

数日後、今度は市内のモスクを訪れてみた。町の中心部に遠くから見つけることのできる尖塔を目指して向かう。入口の脇には、およそモスクのイメージには似つかわしくない、女性物の水着やノースリーブのドレスなど露出の高い女性物の衣料品店や、香水などのお店が並ぶ。だがスカーフを巻いて一歩、モスクの中に入ると、そこは中東で見るのと同じような礼拝の場だ。白を基調とした建物の窓には簡素なステンドグラスがはまり、正面がウドゥー(礼拝前の洗い清め)用の水道と、男性用の広い礼拝所になっていた。壁にはお祈り時間や注意書きが、アラビア語単語混じりのフランス語で壁に貼りだされていた。

(サン・ドニのモスク)

同僚とぶらぶら見学をしていると、礼拝に来ていたとおぼしき男性から話しかけられた。聞くと、このモスクに来るのはグジャラート出身の人が多いらしく、彼もそのひとりだという。女性用の礼拝所の入り口を見せてくれたり、モスクの歴史や分布を説明してくれたり、親切な案内のなかで、彼はレユニオンにおける多宗教の共存状態の素晴らしさを強調してみせた。キリスト教、イスラーム教だけでなく、ヒンドゥー教寺院やシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)、関帝廟もあるこの島では、フランス本土よりも互いの宗教への尊重があるのだ、と。通りすがりの私にその真偽は分からないものの、住む人にとって暮らしやすい生活空間が築かれていることは確かなのだろう。南国の開放的な空気が、穏やかな共生に一役買っているような気がした。

(錦田 愛子)

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