2013年4月

レバノン週報(2013年4月22日〜2013年4月28日)

雨模様で気温が上がらない日々が続いた先週とは打って変わり、今週に入ってからは早くも夏の到来を思わせるような気候となった。こうした中で、レバノンにおける国会議員128名の内、124名からの圧倒的な支持を得て首相職に任命されたサラーム議員は引き続き、相対立する「3月14日連合」勢力と「3月8日連合」勢力双方の意向に配慮しつつ、新内閣樹立の努力を行っている。だが、両陣営の有力者らと会合を続けていることが連日に渡り報道されたものの、今週も組閣には至らなかった。

この背景には、3月14日連合サイドが実務者中心の「テクノクラート内閣」の樹立を希望する一方、3月8日連合側が「挙国一致内閣」(有力政治家・組織がもれなく参加)の樹立を要求していることがある。サラーム議員は3月14日連合を率いるスンナ派組織「ムスタクバル潮流」に所属してはいないものの、同連合と密な関係を有していることから、内閣の形態としては「テクノクラート内閣」、しかも6月に予定されている国会議員選挙に立候補予定のない人物の入閣を望ましいとしている。こうしたサラーム議員の見解に対して、暫定首相として職務を遂行しているミーカーティー議員は4月22日に、サラーム議員を支持している全ての勢力が参加し、なおかつ次期選挙に立候補予定のない人物で構成される内閣という折衷的な提案を行ったが、組閣に至るまでには形態以外にも乗り越えなければならないハードルがある故に、時間を要しているのである。

この点に関連して、4月21日に新内閣の定員が24名になる可能性が濃厚との発言がサラーム議員から出た後は、この枠内での各勢力に対する閣僚ポスト配分が話題になっている。サラーム議員は、3分の1を超える大臣が辞任すると当該内閣の崩壊を導くというレバノン憲法第69条の規定に鑑み、政策遂行に際して各勢力に「拒否権」を与えることになる閣僚配分に強く反対している。すなわち、レバノンの政治勢力が3月8日連合と3月14日連合、及びその他の「中立的な」勢力から成ると大まかに区分け可能な現況において、どの勢力にも8人を超える閣僚数を与えない(つまり閣僚配分を8人ずつとする)ことで、各勢力単独で内閣崩壊の引き金を引くことが出来ないようにしようと試みているのである。

しかしながら、とりわけ3月8日連合サイドが8つ以上の閣僚ポストを欲していると言われていることから、サラーム議員に近い筋は4月28日に、どの政治勢力にも「拒否権」を与える意向がないことを改めて言明した。内閣の形態や勢力配分のみならず、大臣ポスト獲得を巡る動きも水面下で展開されている中、さて来週はどのような展開を見せるであろうか。

レバノン週報(2013年4月15日〜2013年4月21日)

珍しく雨模様となった4月のベイルートの光景。

4月にしては非常に珍しい雨模様の日が続いた今週も、首相職に任命されたサラーム議員は引き続き組閣に向けた努力を行った。レバノンにおける国会議員128名の内、124名からの圧倒的な支持を得て首相職に任命されたことから、サラーム議員は相対立する「3月14日連合」勢力と「3月8日連合」勢力双方の意向に配慮しつつ、新内閣を樹立しなければならない状況に置かれている。すなわち、サラーム議員は3月14日連合を率いるスンナ派組織「ムスタクバル潮流」に所属してはいないものの、同連合と密な関係を有していることから、14日サイドによる実務者中心の「テクノクラート内閣」の樹立希望を第一に考慮しなければならない一方で、3月8日連合側からの「挙国一致内閣」(有力政治家・組織がもれなく参加)の樹立要求にも耳を貸さなければならないのである。

他方、内閣の形態を巡る3月8日連合と3月14日連合の見解の相違が埋まらなかったにもかかわらず、サラーム議員は4月17日には各閣僚ポストの候補者選びを開始した。だが、3月14日連合側が18日に、3月8日連合を率いるシーア派組織「ヒズブッラー」出身者が含まれる内閣に加わらない意向を改めて表明したのに対して、ヒズブッラーのカーシム副書記長は翌19日に「テクノクラート内閣」の樹立を非現実的と喝破しており、故に閣僚候補の人選には困難が伴っている。サラーム議員が週末に有力政治家らと会合を重ねた結果、21日には新内閣の定員が24名になる可能性が濃厚との発言が出るようになったが、同議員はなるべく多くの政治勢力に受け入れてもらえるように、時間をかけて組閣に取り組むと観測されている。

さて、シリアにおける内戦状況がレバノンに様々な形で波及している中、シリア国軍によるレバノン領内に対する砲撃や越境作戦が問題視される一方、「自由シリア軍」などの反政府武装勢力側もロケット砲をレバノン領内に打ち込んでいる。と言うのも、シリア国内でアサド政権部隊を手助けしているヒズブッラーの民兵が、レバノン北東部国境地帯のヘルメル地方にあるシーア派の村を拠点としているからである。また、ヒズブッラーの民兵1000人ほどが、ヘルメル地方に隣接するシリア領内に居住している2万人から3万人のレバノン人シーア派を守るために越境しているとも報告されている。この結果、ヘルメル地方並びに隣接するシリア領内においては、同国の反政府勢力とヒズブッラーの間での戦闘が頻発するようになっており、事態が制御不能になる危険性も指摘され始めている。

※ 写真:2013年4月撮影
珍しく雨模様となった4月のベイルートの光景。弊センターより撮影。

レバノン週報(2013年4月15日〜2013年4月21日)

レバノンにおける国会議員128名の内、124名からの圧倒的な支持を得て首相職に任命されたサラーム議員は今週に入って早速、組閣に向けた動きに取り掛かった。サラーム議員は3月14日連合を率いるスンナ派組織「ムスタクバル潮流」に所属してはいないものの、同連合と密な関係を有していることから、組閣に際して14日サイドの意向を汲むことは当然であるが、「3月8日連合」勢力からの支持も得ての任命であるが故に、8日サイドの主張も無視するわけにはいかない状況に置かれている。だが、3月8日連合側が「挙国一致内閣」の樹立を主張したことに対して、サラーム議員は4月11日に同連合の要求を受け入れない意向を示した。

3月14日連合側は他方で、6月に予定されている国会議員選挙に立候補予定のない人物で構成される「テクノクラート内閣」の樹立を希望する旨表明しているが、同連合に所属している、若しくは立場が近しい議員の数は70名強であり、議会で圧倒的な多数を誇っているわけではない。3月8日連合を率いるシーア派組織「ヒズブッラー」や、同連合において影響力を有しているキリスト教組織「自由国民潮流」の関係者を含まない内閣が樹立される可能性も報じられているが、首相に任命されたサラーム議員は今週末になって、メス・メディアによるこうしたリークを理由に、樹立に向けた動きをスローダウンさせていると言われている。だが、シリア情勢の影響がレバノンに様々な形で波及している状況においては、同国の安定に鑑みて新内閣の樹立が急務であることから、サラーム議員が欧米諸国やサウジアラビア、イランといった、レバノンに相対立する利害関係を持つ諸国から得た幅広い支援を利用して、早期の内閣樹立に漕ぎ付けることが期待されている。

なお、シリア国軍によるレバノン領内に対する砲撃や、同政権軍の越境作戦が問題視されるようになって久しい中で、4月10日にはベカー平原北東部に対する空爆が行われた。スライマーン大統領が翌11日に、シリア国軍の攻撃を非難する声明を発したものの、14日にはロケット砲がレバノン領内に打ち込まれる事件が発生するなど、両国国境地帯ではこうした事件が常態化している。

レバノン週報(2013年4月1日〜2013年4月7日)

オフィス周辺の春の風景。

スライマーン大統領が新首相選出に必要な国会議員に対する諮問を4月5日と6日の両日に行うことを決定したことから、「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力は共に今週に入ってからも、次期首相選出を睨んだ動きを繰り広げた。こうした中でミーカーティー内閣で多数派を形成していた3月8日連合サイドは1日に、同暫定首相が返り咲く可能性が高いとの見通しを明らかにした。他方、3月14日連合サイドが2日に、6月9日に予定されている国会議員選挙に立候補予定のない人物で構成される内閣の樹立を希望する旨表明したことから、同連合はレバノン第二の都市トリポリでの立候補の意向を既に明らかにしたミーカーティーを支持しない意向であることが明らかになった。

その後、3月8日連合や3月14日連合共に独自の首相候補を模索しているとの報道が飛び交ったが、4月4日になって3月14日連合はサラーム議員を推挙することを決定した。同日に3月8日連合が長時間に渡る議論の末、サラーム議員に対する支持という結論を下したことから、サラーム議員は5日と6日の両日にスライマーン大統領主宰の下で行われた諮問において、124名(国会の定員は128名)という圧倒的な支持を得て首相に任命された。

サラーム議員はベイルート選出の67歳で、父サーイブ・サラーム氏が内戦勃発(1975年)前のレバノンで幾度となく首相職に就任するなど、スンナ派の名望家の出である。また、サラーム議員は3月14日連合を率いるスンナ派組織「ムスタクバル潮流」に所属してはいないものの、同連合と密な関係を有している。だが、3月8日連合所属議員からも圧倒的な支持を受けて首相に任命されただけに、サラーム議員は「挙国一致内閣」を形成しなければならない状況に置かれている。

レバノンの仏語紙 L' Orient Le Jour は4月8日に、首相に任命されたスライマーン議員が新内閣の定員として14〜20人を想定していると報じているが、形成に際しては定員を考慮しつつ、慣例に従ってキリスト教徒とムスリムの閣僚数を同じにしなければならない。また、内務地方行政相、国防相、財務相、外務在外居住者相といった「重要ポスト」に関してはマロン派、ギリシャ正教、スンナ派、シーア派に割り振らなければならない慣例も存在している。更に、ラフィーク・ハリーリー元首相爆殺事件を審理している「レバノン特別」法廷が政治的なイシューとなっていることから、同元首相の子息であるサアド・ハリーリー議員率いるムスタクバル潮流は法相のポストを要求するであろうし、レバノン沖における石油・ガス田の探索に本腰を入れ始めた状況においてはエネルギー・水資源相のポストも争点となろう。

このように、サラーム議員は組閣に際して複雑な「方程式」を解かなければならず、そのプロセスには紆余曲折が伴うと早くも予測されているが、他方で同議員は関係が深いサウジアラビアのみならず、イランやロシアからの支持も任命後に得ている。3月8日連合の後ろ盾であるイランと、3月14日連合の後ろ盾であるサウジアラビアの双方がサラーム議員を後押ししていることから、国内政局に起因する対立がレバノンにおける治安を今後大きく損なう可能性は低いと思われるものの、シリア情勢の悪化に伴う影響には引き続き注意を要しよう。

※ 写真:2013年4月撮影
オフィス周辺の春の風景。右奥の建物に弊センターが入っている。

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