2013年3月

レバノン週報(2013年3月25日〜3月31日)

ミーカーティー首相が先週の3月22日に内閣総辞職を発表し、翌23日にスライマーン大統領に辞表を提出したことから、「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力は共に、次期首相選出を睨んだ動きを繰り広げている。暫定首相となったミーカーティー本人は26日に、新内閣を率いる意向であることを明らかにしたが、各連合は組閣に際しての条件を既に提示している。事実、3月8日連合を率いるシーア派組織「ヒズブッラー」が同組織の武装維持をこれまでと同様に新内閣の施政方針に盛り込むことを要求する一方で、3月14日連合は国会議員選挙が6月9日に予定されていることから、「中立的な」内閣の樹立を要求している。スライマーン大統領は新首相選出に必要な国会議員に対する諮問を4月5日と6日の両日に行うことを決定したが、その結果はいかがなものとなろうか。

他方、スライマーン大統領は3月26日にカタルの首都ドーハで開催されたアラブ連盟首脳会議に出席し、シリア情勢に対するレバノンの「非関与政策」を改めて表明した。これに対して、アラブ諸国の首脳らはレバノン安定化のために政治・経済支援を与えることを約束すると共に、同国の治安維持を担っている政府軍や警察組織の能力を強化する必要性を確認した。だが、レバノン政府軍の能力強化に対する具体的な軍事・財政支援がアラブ諸国から今後提供されるかどうかは、現時点では不明な状況である。

ところで、レバノンがシリア、更には湾岸アラブ諸国に至る物資輸送の基点である中、シリアの内戦状況が激しさを増すのに伴い、レバノンのトラックがシリア国境で長時間の待機を余儀なくされ、或いは同国で戦闘に巻き込まれて帰着出来なくなるといった事態が生じている。こうした状況において、レバノン南部の都市サイダーからヨルダン南部の都市アカバに至るスエズ運河経由のフェリーのルートが先週に開設され、3月25日に第一便が到着したと報じられている。第二便は今週中にも出航すると言われているが、シリア・ヨルダン国境近辺でのアサド政権部隊と反体制武装勢力の戦闘が激化していることから、レバノンから湾岸諸国に至る輸送を確保するこの航路には期待がかけられている。

レバノン週報(2013年3月18日〜3月24日)

コルニーシュ・アル=マズラア通りの一風景。

先週のレポートにおいて、アサド政権が反体制勢力に対する掃討作戦の一環としてレバノン・シリア国境地帯における越境攻撃をこれまで断続的に行ってきている中で、3月14日にはシリア外務省が遂に書面にて軍事作戦をレバノン側に正式に通告してきたことに触れた。この結果、翌15日からシリア側は大規模な攻勢に出て、18日には戦闘機やヘリコプターまでもが動員されるに至った。これに対してスライマーン大統領は19日に、シリア軍による攻撃をレバノンの主権を侵害する行為として非難したが、シリア外務省は同日に空爆の事実を否定した。

他方で、ベイルートで3月17日に発生したスンナ派の聖職者が襲撃される事件に関しては、翌日も首都の一部地区(コルニーシュ・アル=マズラア通りなど)では道路封鎖などの抗議活動が一時的に見られたが、大きな騒動にはならなかった。

シリア軍越境攻撃、並びにスンナ派聖職者襲撃事件共に、その後幸いにしてレバノンの安定を大きく揺るがすことはなかったが、22日にはミーカーティー首相が内閣総辞職を発表するという事態が生じた。スライマーン大統領は翌23日に辞表を提出したミーカーティーに対して、新内閣が組閣されるまで暫定首相として職務に留まるように要請したが、レバノンの先行き不透明感は一層高まることになった。

ミーカーティー首相による辞任の背景には、6月9日に予定されている国会議員選挙を監視する機構の樹立、及びリーフィー「内務治安軍総局」長の任期延長といったイシューに関して、閣内で多数を占めている「3月8日連合」勢力出身閣僚から協力を得られなかったことがあったと観測されている。「3月14日連合」勢力側はミーカーティー首相の辞任表明を歓迎する傍ら、同連合の中核組織であるスンナ派組織「ムスタクバル潮流」支持者らが首相辞任を求め、首相府を臨む「リヤード・スルフ広場」で行っていた座り込み活動を中止させた。事実、3月22日夜に同支持者らがテントの撤去に着手したことから、西ベイルートの拙宅から弊センターに至る通勤経路は翌日から半年振りに元通りになった。

だが、アラウィー派(シーア派の一派とされている)主体のアサド政権と、スンナ派主体の反体制武装勢力というシリアにおける対立構造を受けた形での、レバノンにおける宗派対立の悪化が懸念されている状況において、同国第二の都市トリポリでは両派の武力対立が週末に再燃し、またレバノン東部のシリア国境近くではスンナ派とシーア派が誘拐合戦を繰り広げている。更に、イスラエル軍によるレバノン上空の偵察飛行回数が増えているとの報道も出ていることから、勤務先周辺の環境は平常に戻ったものの、レバノンを取り巻く情勢はミーカーティー首相の辞任と相俟って、より注意を要するものとなっている。

※ 写真:2013年3月撮影
コルニーシュ・アル=マズラア通りの一風景。背景の三色旗が掲げられている建物は、駐レバノン仏大使公邸。

レバノン週報(2013年3月11日〜3月17日)

今週の3月15日をもって、シリアで反体制運動が勃発してから丸2年が経過したことになった。だが、アサド政権部隊と反体制勢力による武力衝突の終焉が近付いているような状況からは依然として程遠く、反体制側が主にシリア北東部における実効支配を着々と進めていることから、国土の一体性がますます損なわれるようになっている。

これに対して、アサド政権側は反体制勢力が周辺国に持つ拠点に対する掃討作戦を展開してきており、その一環としてレバノン・シリア国境地帯における越境攻撃を断続的に行っている。故に、レバノン側には人的・物的被害が生じてきているが、シリア情勢に対する「非関与政策」を掲げるミーカーティー内閣がシリア政府に苦情を申し入れることは、これまで稀であった。こうした中でシリア外務省が3月14日に、レバノン国内に存在する反体制派拠点に対する越境攻撃を書面にて通達し、翌日には早速に実行に移したことから、国内では先行きに関する不安が一層高まることになった。スライマーン大統領は15日に、レバノンをシリア向けの武器並びに武装要員の経由地にしてはならないとの決意を改めて表明すると共に、シリア政府の通達を非難した。他方でミーカーティー首相は同日に、カフワジー・レバノン国軍司令官と対応を協議したが、「反アサド」を掲げる「3月14日連合」勢力は国境地帯への政府軍の増派、並びに国連軍の派遣を主張した。

このように、レバノン・シリア国境における緊張状態が高まる一方で、3月17日にはベイルートにおいてスンナ派の聖職者が襲撃される事件が発生した。アラウィー派(シーア派の一派とされている)主体のアサド政権と、スンナ派主体の反体制武装勢力というシリアにおける対立構造を受けた形での、宗派対立の悪化がレバノンにおいて懸念されていることから、シーア派とスンナ派の政治・宗教指導者らは事態が制御不可能にならないように即座に声明を発した。この結果、ベイルートや南部の都市サイダー、ベカーア平原などでスンナ派を主体とする抗議活動が展開され、道路封鎖などが一部生じたものの、騒動は大きなものにはならなかった。

レバノン週報(2013年3月4日〜3月10日)

ベイルート郊外のナフル・アル=カルブにて。

レバノンにおいては現在、アラウィー派(シーア派の一派とされている)主体のアサド政権と、スンナ派主体の反体制武装勢力というシリアにおける対立構造を受けた形での、宗派対立の悪化が懸念されるようになっている。事実、レバノンにおいては2005年以降、シーア派主体の「3月8日連合」勢力と、スンナ派主体の「3月14日連合」勢力がレバノン・シリア関係のみならず、ラフィーク・ハリーリー(R・ハリーリー)爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」や、3月8日連合の主軸を成すシーア派組織「ヒズブッラー」の武装といったイシューに関して相対立する見解を有してきたことから、両連合の間において死者を伴う武力衝突が生じたこともあった。

こうした中で、スンナ派聖職者であるアシール氏が、アサド政権の国際的孤立や弱体化といった状況を利用して、同政権と緊密な関係にあるヒズブッラーの武装解除を声高に叫ぶのみならず、同組織に対して様々な挑発行為に出ている。最近ではレバノン第二の都市サイダー近郊の、アシール氏が拠点とするモスクの近くにいるヒズブッラー戦闘員らが同氏を監視しているとして、彼らの追放を主張していることから、同地におけるスンナ派とシーア派の関係に悪影響をもたらすことが憂慮されている。スライマーン大統領は3月4日に、レバノン政府軍による治安維持努力を評価する旨の発言を行ったが、サイダーにおいては同政府軍の展開や、同地を拠点とするバヒーヤ・ハリーリー議員(R・ハリーリー元首相の妹)による8日の呼び掛けなどにより、辛うじて平穏が保たれている状態である。

他方、イランでの参詣を終えて帰途についていたシーア派レバノン人11人が、シリア北部の都市アレッポで昨年5月下旬に反体制勢力によって誘拐された事件に関しては、解放に向けた交渉が進んでいるようである。昨年8月と9月に釈放された2名を除く人質9名に関しては、「ジハード集団」に属する「ヌスラ戦線」(米国は昨年12月に「テロ組織」として認定)の監視下に置かれているとの説も出ていたが、「穏健な」イスラーム勢力の庇護下にあるとの見方が強くなっており、またトルコ国境近くに移送されたとも言われている。昨年の人質解放ではトルコ政府が大きな役割を果たしたことから、多少なりとも今後の展開に希望を持てる動きが水面下で進行中と言えよう。

なお、先週に触れたように、反体制派との攻防で次第に追い詰められているアサド政権が、シリア政府軍の保有する兵器の一部をヒズブッラーに渡しているとの疑いが生じていることから、イスラエルは両者の関係に神経を尖らせている。ヒズブッラーが高性能な武器を入手していると見なされていることから、イスラエルは戦力バランスが自らに不利になる前にヒズブッラーを叩きたいとの意向を当然持っていると思われ、対ヒズブッラー戦争を準備中との報道が出ている。

※ 写真:2013年2月撮影
レバノン山地からの雪解け水が地中海に流れ込んだ光景。ベイルート郊外のナフル・アル=カルブにて。

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