2013年2月

レバノン週報(2013年2月25日〜3月3日)

先週に報告したように、レバノンの二大政治勢力である「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力はシリア情勢を巡り対立を繰り広げているが、今週もこうした動きが見られた。3月8日連合の中核を成すシーア派組織「ヒズブッラー」を率いるナスルッラー書記長は2月27日に、アサド政権擁護の姿勢を改めて示すと共に、レバノンにおける宗派対立を煽っているとしてスンナ派を非難した。これに対して、3月14日連合を率いるスンナ派組織「ムスタクバル潮流」の主要メンバーであるシニオーラ元首相とバヒーヤ・ハリーリー議員(2005年2月に爆殺されたラフィーク・ハリーリー元首相の妹)は翌28日に、ナスルッラー発言を非難する声明を出した。ミーカーティー内閣がシリア情勢に対する「非関与政策」を標榜してきているのにも拘らず、ヒズブッラー戦闘員がアサド政権部隊と行動を共にする一方、ムスタクバル潮流も反体制派に武器や資金援助といった形での支援を行っていることから、シリアにおける対立構造を反映した形でレバノン情勢が悪化する危険性は常に指摘されている。アシール氏などの一部のスンナ派聖職者が宗派対立を煽る発言をしていることもあり、26日のフェルトマン政治問題担当事務次長による発言に現れたように、国連もレバノン情勢の先行きを憂慮する声明を発してきているが、現時点では幸いにして治安の悪化は押さえられている。

他方、レバノンにとってのもう一つの隣国であるイスラエルは、2月24日の国防関係者発言に見られるように、シリア国軍からヒズブッラーへの武器供給に関して神経を一層尖らせるようになっている。と言うのも、反体制派との攻防で次第に追い詰められているアサド政権が、ヒズブッラーにその兵器の一部を渡しているとの疑いが生じているからである。イスラエル空軍機は1月29日から30日未明にかけて、レバノン国境近くのシリア領内でヒズブッラー向けの軍事物資を輸送中の車列を攻撃したと報じられているが、同様な事態が今後レバノン領内で発生しないとの保証はどこにもない。レバノン領空におけるイスラエル戦闘機や無人偵察機の動きが活発化していると、26日発行のレバノンの英字紙「デイリー・スター」が報じたことから、イスラエルの動向もベイルートに住んでいる身としてはこれまで以上に注視していく必要がある状況となっている。

レバノン週報(2013年2月19日〜2月24日)

雪解け水で増水した河川の光景。ベイルート郊外のナフル・アル=カルブにて。

東京での研究発表などをこなし、2月19日にベイルートに戻ってきた。着いてみると、ベイルートは既に春の装いであり、ホッとすることが出来た。

さて、シリア情勢の展開はレバノンの政治社会状況に様々な影響を与えてきているが、レバノンの二大政治勢力である「親アサド」の「3月8日連合」勢力と、「反アサド」の「3月14日連合」勢力との対立は深まる一方である。事実、3月8日連合の中核組織「ヒズブッラー」を率いるナスルッラー書記長と、3月14日連合の軸を成す「ムスタクバル潮流」を率いるハリーリー前首相は今週も、対シリア関係を巡って舌戦を繰り広げた。と言うのも、ヒズブッラーの戦闘員が先週に、レバノン国境に近いシリア領内の町で反体制勢力と交戦していたことが明るみに出たからであった。

この戦闘において、ヒズブッラー戦闘員3人とその他14人が負傷する一方、反体制側の戦闘員12人が死亡したと報道されている中で、反体制武装勢力の中核組織「自由シリア軍」は2月19日に、レバノン国内にあるヒズブッラーの拠点を攻撃するとの警告を発した。ムスタクバル潮流も反体制派に資金や武器を提供していると言われているが、同組織はヒズブッラーによるシリア情勢への介入こそがレバノン国家にとって危険であると見なし、21日にはハリーリー前首相がミーカーティー内閣のヒズブッラーに対する姿勢を非難する声明を発した。だが、ミーカーティー内閣は3月8日連合出身閣僚が多数を占めている上に、ヒズブッラー出身者も抱えていることから、同組織による「親アサド」の姿勢が閣議で取り上げられることはないであろう。

その後幸いにして、自由シリア軍による対ヒズブッラー攻撃は実施されていないものの、シリア政府軍は「テロリスト掃討」という大義名分の下、レバノン領内に対する砲撃を行っている。昨年にはシリア政府軍のこうした攻撃でレバノン人が死傷する事件が相次いだが、今週末のケースでは4人の死亡が確認される事態となった。スライマーン大統領とミーカーティー首相は2月24日にシリア側に苦情を申し入れたが、反体制勢力がレバノン領内に拠点を構築していることから、シリア政府軍による越境攻撃は今後も行われるであろう。

※ 写真:2013年2月撮影
雪解け水で増水した河川の光景。今年は例年になく積雪が多く、レバノン山地では多くの雪害が発生した。
この橋はローマ時代のものと言われている。ベイルート郊外のナフル・アル=カルブにて。

最近の投稿

Recent Entries

アーカイブ

Archive

Copyright © Field Archiving of Memory  〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1  TEL: 042-330-5600
Copyright © Field Archiving of Memory    3-11-1 Asahi-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183-8534    Tel: 042-330-5600