2012年12月

レバノン週報(2012年12月24日〜12月30日)

シリアにおける内戦状況はレバノンの政治社会情勢に様々な形で影響を与えているが、今週には難民問題を巡る閣僚間の見解の相違が報じられた。その発端となったのが、シリアにおけるアサド政権と反体制派との武力対立が激化するのに伴い、人口約400万人のレバノンにシリアからの難民が16万人ほど(アサド政権部隊がシリア国内のパレスチナ難民キャンプを攻撃しているために、シリア人のみならずパレスチナ人を含む)現在いると言われている中での、アリー駐レバノン・シリア大使による難民の取り扱いに関する苦情の申し入れであった。アリー大使は今月上旬にレバノン外務省に送付した手紙の中で、同国の社会問題省が難民の政治的立場に基づいて援助の提供を行っていると主張したが、これに対してファーウール社会問題相は12月26日に同大使の主張を否定すると共に、難民に対する援助は人道的配慮にのみ基づいて行われていると反論した。だが、マンスール外相はアリー大使の発言に理解を示しており、同外相が「親アサド」の「3月8日連合」勢力に属するシーア派組織「アマル運動」に属する一方、ファーウール社会問題相は「反アサド」の「3月14日連合」勢力との関係を最近再構築しつつある「進歩社会主義者党」に属することから、今後シリア難民の取り扱いを巡っても両連合間の対立が深まることが想定されよう。

さて、3月8日連合と3月14日連合が前者に属するシーア派組織「ヒズブッラー」の武装問題に関しても見解を異にしている状況において、スライマーン大統領は両連合に属する主要組織の代表を参集することで、双方に納得のいく形での同問題の解決を目指す「国民対話会合」を折に触れて召集してきている。しかしながら、ヒズブッラーの武装維持を目指す3月8日連合と、武装解除を目指す3月14日連合との見解の相違は大きく、来年1月7日に予定されている次回の会合の開催は危ぶまれている事態である。こうしたことから、イランでの参詣を終えて帰途についていたシーア派レバノン人11人がシリア北部の都市アレッポで5月下旬に誘拐された事件に関して、これまでに2名が釈放されたのみで年末を迎えてしまったことと相俟って、シリア情勢の展開並びにそれに影響される要素を多々持つレバノンの政治社会状況は来年も、本レポートの主要トピックとなるであろう。

レバノン週報(2012年12月17日〜12月23日)

オフィス前にある教会の前庭に飾られたクリスマス・ツリー。

ベイルートでは今週になって雨模様の日が続くなど冬が本格化しつつある中で、クリスマスの飾り付けがそこかしこで見られるようになった。キリスト教徒が多く住んでいる東ベイルートはもとより、ムスリムが主体の西ベイルートにおいても、スーパーの店員がサンタクロースの帽子を被って勤務するなど、クリスマス・ムードが高まっている。だが、シリア情勢の影響もあってクリスマス商戦は例年ほどの高まりを見せていないようである。東ベイルートにあるショッピング・モールでは昨年と同じように駐車場に入るための渋滞が生じたものの、西ベイルートのハムラー地区では明らかに人出が少なく、また大きな買い物袋を持っている人が少数に留まっている。なお、週末に南ベイルートの「シーア」(その名の通り、シーア派ムスリムが多く住んでいる)に買い物に行ったが、そこではクリスマスの雰囲気が全く感じられない上に、主要通りに面した一角に2006年の「レバノン戦争」の際に破壊されたままの建物が残っているなど、お祭り気分にはとても浸れない場所であった。

この建物には、シーア派組織「アマル運動」の創始者であるサドル師と、現在の指導者であり、かつ国会議長であるビッリーの肖像画が描かれた巨大な横断幕が掲げられていたが、外国人の姿が全く見られない上に、同運動に属している構成員たちが街路を警備していたことから、残念ながら写真撮影は出来なかった。

さて、シリア情勢の展開がレバノンに様々な形で影響を与えていることは、とりわけ政治面を中心にこれまで報告してきたが、忘れてはならないのが難民の存在である。シリアにおけるアサド政権と反体制派との武力対立が激化する中で、レバノンには現在16万人ほど(同国の人口は約400万人)のシリアからの難民(アサド政権部隊がシリア国内のパレスチナ難民キャンプを攻撃しているために、シリア人のみならずパレスチナ人を含む)がいると言われている。多くはレバノン・シリア国境地帯にいるものの、ベイルート市内でも見かけることがあり、手持ちの資金が充分でない人たちの一部が当オフィス近くの路上で寝泊まりしているのを見かけるようになった。レバノン政府は難民問題に対処するために、1億8000万ドルの資金提供を国連に求めているが、難民の間にツベルクリン反応が出るケースも相次いでおり、緊急の対応が必要な状況である。こうした中で、「親アサド」の「3月8日連合」勢力に属するバーシール・エネルギー水資源相は12月22日に、シリアからの難民の増加がレバノンにとって負担であるため、追放すべきであると訴えた。これに対して、「反アサド」の「3月14日連合」勢力所属議員から批判が出ているが、難民問題への対処はミーカーティー内閣にとって喫緊の課題になっている。

※ 写真:2012年12月撮影
オフィス前にある教会の前庭に飾られたクリスマス・ツリー。 撮影時は正午のクリスマス・ミサが終わった後であった。

レバノン週報(2012年12月10日〜12月16日)

ベイルートの北東部にあるアルメニア人街「ブルジュ・ハンムード」で<br />
                    見かけたアルメニア語のポスター。

先週のリポートにおいて、シリアにおけるアサド政権(シーア派の一派とされているアラウィー派主体)と反体制派(とりわけ武装勢力はスンナ派が主流)との対立構造を反映する形で、レバノン北部の都市トリポリにおいてアラウィー派住民とスンナ派住民との武力衝突が再び活発になったことに言及した。そこで、レバノン政府軍が12月10日から治安回復措置を取った結果、両派の衝突は収まったが、対立の根本要因であるシリア情勢は依然として解決の目処が立っていない状況である。また、トリポリにおけるアラウィー派とスンナ派の武力が現時点で拮抗しているが故に、一時的な停戦がもたらされているに過ぎない、との指摘もなされていることから、今後同地における情勢が再び悪化することは充分想定されるところである。

他方で、「3月14日連合」勢力がシリアの反体制勢力に資金や武器を供与していると見なされている中で、同国政府は12月11日になって、同連合を率いるハリーリー前首相や同連合に属するサクル議員、反体制武装組織「自由シリア軍」関係者に対して逮捕令状を発した。

レバノンのシャルビル内務相は同日、「内務治安軍総局」内にある「国際刑事警察機構」の事務所がこの逮捕令状を受け取ったことを明らかにしたが、同機構はその後、法的に有効なものではないと判断するに至った。この件に関連してハリーリーは翌12日に、アサド大統領を「モンスター」と呼ぶなどして敵対姿勢を強めており、対立する「3月8日連合」勢力側も同連合内の中核組織「ヒズブッラー」を率いるナスルッラー書記長が16日に、3月14日連合サイドの政治姿勢に対する激しい非難を行うに至った。

なお、アサド政権関係者からレバノンにおけるテロの実行を教唆されていたとされるサマーハ元情報大臣(本年8月逮捕)に関する捜査も進められており、レバノンの軍事法廷は12月10日に、アサド政権関係者ら3人の召喚を求めた。その中には、アサド大統領の特別治安アドバイザーであるマムルーク氏や、同大統領の上級アドバイザーであるシャアバーン女史が含まれていることから、前出のシリア側からの逮捕令状の発出とともに、レバノン・シリア関係に与える影響が懸念されている。

※ 写真:2012年11月撮影
ベイルートの北東部にあるアルメニア人街「ブルジュ・ハンムード」で見かけたアルメニア語のポスター。
第一次世界大戦時にオスマン帝国から逃れてきたアルメニア人の子孫を中心に、レバノンには20万人程度(全人口の5パーセント)が現在居住していると言われている。

レバノン週報(2012年12月3日〜12月9日)

シューフ山地の中心地バイト・エッディーンで見かけた教会の建物。

これまでのリポートにおいて、シリアにおけるアサド政権(シーア派の一派とされているアラウィー派主体)と反体制派(とりわけ武装勢力はスンナ派が主流)との対立構造が、レバノンにおける両派の関係に様々な波紋をもたらしていることに触れてきた。こうした中で、北部の都市トリポリにおいてはアラウィー派住民とスンナ派住民との武力衝突が再び活発化しており、レバノン政府軍が出動して何とか事態の収束を図ろうと試みている。同政府軍の発表によれば、12月10日からは治安回復のためにあらゆる措置が取られるとのことであるが、9日の夜になっても武力衝突は収まるどころかむしろ激しさを増しており、果たして戦闘が止むのかどうか疑問視される状態となっている。

さて、「3月8日連合」勢力の中核組織であるシーア派組織「ヒズブッラー」がアサド政権側に人員を送り込んでいると言われている一方、「3月14日連合」勢力はシリアの反体制派に資金や武器を供与していると見なされている。先週になって、3月14日連合の中核組織「未来潮流」に属するサクル議員が、シリアの反体制派に武器の供給を持ちかけていたと報じられるに至ったが、同議員は12月3日に、自らの行為を認めると共に後悔していないとの声明を発し、法的措置に従う意向であることを明らかにした。

また、サクル議員の行動は未来潮流を率いるハリーリー元首相の支持に基づいたものとも報じられているが、同元首相は沈黙を守っている。他方で身の安全を理由にして、フランスやサウジアラビアなどに滞在しているハリーリー元首相は4日に、シリアの反体制派幹部らとリヤードで会談した。未来潮流サイドはこれまで、シリアの反体制勢力に対する支援は政治・道義的な支援に留まっていると言明してきていたが、同日にはサクル議員を擁護する公式声明を発していることから、アサド政権が国内的かつ対外的に追い込まれている状況で、未来潮流が支援強化に乗り出している可能性は高まっていると言えよう。

なお、ヒズブッラーをはじめする3月8日連合側は今のところ、サクル議員や未来潮流に対するそれほど激しい非難を展開していない。これはやはり、3月8日連合サイドもミーカーティー内閣のシリア情勢に対する「非関与政策」を無視する形で、同国に様々な関与を行っていることから、3月14日連合サイドを非難することで、仕返しとして自らの抱えている事情をいろいろと探られることは望んでいないからであろう。

※ 写真:2012年12月撮影
シューフ山地の中心地バイト・エッディーンで見かけた教会の建物。
同地はレバノン共和国第二代大統領カミーユ・シャムーン(在位1952〜1958年)の出身地。

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