2012年11月

レバノン週報(2012年11月26日〜12月2日)

10月19日にハサン准将に対する爆殺事件が発生して以来、「3月14日連合」勢力が「3月8日連合」勢力を主体とするミーカーティー内閣の国内治安責務を問う形で同内閣の即時辞任を求めている中、11月29日には3月14日連合の中核組織「未来潮流」が改めてその主張を訴えた。また、12月2日にはレバノン北部の都市トリポリにおいて、未来潮流の支持者らがハサン氏の追悼集会を行った他、同国南部の都市サイダーにおいてはシーア派組織「ヒズブッラー」の武装解除を求め、これまでも抗議活動を展開してきたスンナ派の聖職者アシール氏が集会を開いた。だが、同氏の支持者とヒズブッラー支持者との衝突により3人が死亡し、負傷者数名が発生した11月11日のケースとは異なり、12月2日は以前にも増して国軍や治安部隊による厳しい警戒態勢が敷かれたこともあり、大きな問題が生じることなく収束した。

他方、シリアにおけるアサド政権(シーア派の一派とされているアラウィー派主体)と反体制派(とりわけ武装勢力はスンナ派が主流)との対立構造を反映する形で、北部の都市トリポリではアラウィー派住民とスンナ派住民との関係が再び悪化している。トリポリの一部の街区において両派間の衝突がこれまで断続的に続いてきた状況のもと、シリアの反体制派支援に向かっていたスンナ派レバノン人20名が、シリア領内に潜入した直後に同国軍の攻撃に遭って死亡したとの報が流れると、11月30日夜から同都市において銃声が頻繁に聞こえるようになった。

なお、ミーカーティー内閣はシリア情勢に対する「非関与政策」を掲げているが、スンナ派とシーア派は共に、同国に対して様々な関与を行っていると言われている。3月8日連合の中核組織ヒズブッラーは、アサド政権側に人員を送り込んでいると言われており、同組織に属するとされた人物がシリアにおける戦闘で死亡したとの報道が折々出ている。また、3月14日連合サイドはこれまでに、シリアの反体制派に資金や武器を供与してきたと見なされている。11月下旬に死亡したスンナ派レバノン人20名に関しては、3月14日連合と直接的な関係はないとされているものの、同組織が人員面でもシリア反体制派に対する関与を今後深めるのかどうか、注目されるところである。

レバノン週報(2012年11月19日〜11月25日)

ベイルートのショッピング・モールで見かけて回転寿司のカウンター。

11月21日に停戦合意が成立するまで、イスラエル軍とパレスチナ組織「ハマース」の武力対立が8日間にわたって続く中、レバノンにおけるシーア派組織「ヒズブッラー」の動向が注目された。と言うのも、イスラエル軍が2006年夏に人質となっていたイスラエル兵士の救出を口実にしてガザ地区に侵攻し、ハマース所属のパレスチナ自治政府閣僚と同評議会議員ら数十名を拘束した際に、ヒズブッラーがレバノン側からイスラエル国境地帯に対するミサイル攻撃を行うと共に、越境してイスラエル兵2名を捕虜としたことがあったからである。当時、イスラエルとヒズブッラーの関係が特に緊張していたわけでなかったにもかかわらず、ヒズブッラーが対イスラエル戦線を開いたことは同国に兵力の二方面分散を強いることから、ハマースを側面支援するものとして捉えられ、故に今回もヒズブッラーがイスラエルに対して同様な行動を取ることが懸念されたのである。

結論から言えば、ヒズブッラーを率いるナスルッラー書記長が先週から今週にかけて、アラブ諸国政府が事態の打開に向けた有効な手立てを講じていないとする批判声明を連日発したのみで、同組織は具体的な動きを見せなかったが、この背景にはヒズブッラーの武装維持に対して、レバノン内外から厳しい眼差しが向けられていることがある。事実、2006年夏の「レバノン戦争」が同国に甚大な被害をもたらしたために、ヒズブッラーは当初こそイスラエルに対して善戦をした英雄として見なされたものの、次第に不必要な紛争を惹起した張本人と見られるようにもなった。その結果、レバノンでは親米の「3月14日連合」勢力を中心に、ヒズブッラーの武装解除を求める動きが生じ、同組織が属する「3月8日連合」勢力との間でしばしば武力対立が発生しているのである。さらに、結成の経緯からヒズブッラーがイラン及びシリア両国と軍事的に緊密な関係を維持していることは、3月14日連合側がヒズブッラーをこれらの国々の手先と見なしている状態を作り出している。

こうした国内事情に加えて、ヒズブッラーの後ろ盾であるイランは経済制裁の影響が深刻になっていており、他方でシリアは反体制勢力との内戦が泥沼化している。それ故、ヒズブッラーが対イスラエル攻撃に乗り出した場合には2006年時と異なり、自らが抱えている問題への対処で手一杯なこれら両国からの強力な支援を得られることは期待出来ない状況である。故に、レバノンに直接的な被害がもたらされていない中で、ヒズブッラーが6年前のようにガザ情勢に関連する形でイスラエルに対して独自に攻撃を仕掛けることは、既述の国内・地域要因から演繹するに可能性の高いものではなかったと言えよう。

なお、11月20日にはイスラエルに着弾こそしなかったものの、レバノン南部からイスラエルに向けて実際にロケット弾が発射されており、イスラエルとハマースの間で停戦が成立した翌日の22日には、レバノン南部で同国に向けて発射準備が整っていたロケット弾が発見された。イスラエルもヒズブッラーが関与しているとの見解は取っていない模様であるが、こうした偶発的な事件が引き起こす情勢のエスカレーションの可能性には今後も気を付ける必要があろう。

※ 写真:2012年11月撮影
ベイルートのショッピング・モールで見かけて回転寿司のカウンター。
レバノンではベイルートを中心に、多数の寿司屋があるが、回転タイプはまだまだ少数。昼時には多くのレバノン人でにぎわっていた。

レバノン週報(2012年11月12日〜11月18日)

先月19日にハサン准将に対する爆殺事件が発生して以来、「3月14日連合」勢力が「3月8日連合」勢力を主体とするミーカーティー内閣の国内治安責務を問う形で、同内閣の即時辞任を求めていることはこれまでに触れてきた通りである。だが、スライマーン大統領はシリアにおける内戦状況を中心とする不安定な地域情勢に鑑みて、政治的空白を避けたい意向を強く持っていることから、後継内閣に関する合意を成立させた上でミーカーティー首相が辞任することを望んでおり、同首相もその意向を汲んでいるものの、3月14日連合は話し合いに応じる気配を全く見せていない状況である。

こうしたことから、両勢力間の指導者同士の非難合戦も当然のことながら激しさを増し、3月8日連合における中核組織であるシーア派主体の「ヒズブッラー」を率いるナスルッラー書記長は11月12日に、3月14日連合を強く非難する声明を発した。他方で、3月14日連合における中核組織であるスンナ派主体の「未来潮流」を率いるハリーリー前首相は13日に、ナスルッラー発言に対する反論を行い、また同連合における中心人物の1人であるジャアジャア・「レバノン軍団」党首(キリスト教マロン派)は14日に、ヒズブッラーがスンナ派とシーア派の関係を悪化させていると非難した。

このように、3月8日連合と3月14日連合が政治レベルでの対立を悪化させていることを受けて、社会レベルへの影響も懸念されるところであるが、ベイルートは現時点において平穏が保たれている。当オフィスから徒歩3分の「リヤード・スルフ広場」は首相府の前に位置していることから、3月14日連合に属する若者たちがテントを設置しての抗議活動を続けているが、特に問題は生じていないようである。ベイルートが11月に入ってからも、日中は気温が22〜23度まで上昇し、夕方以降においてさえコートが必要な状況ではないため、テント生活もそれほど苦にはならない気候と思われる中、広場周辺は寛いだ雰囲気でさえある。

しかしながら、シリアにおけるアサド政権(シーア派の一派とされているアラウィー派主体)と反体制派(とりわけ武装勢力はスンナ派が主流)との対立構造を反映する形で、北部の都市トリポリではアラウィー派住民とスンナ派住民との関係が不安定なまま推移している。更に、南部の都市サイダーにおいてはヒズブッラーの武装解除を求め、これまでも抗議活動を展開してきたスンナ派の聖職者アシール氏の動きが活発である。11月11日にはヒズブッラー支持者とアシール氏の支持者が衝突する中で3人が死亡し、負傷者数名が発生したことから、サイダーの治安状況に対しては大きな懸念が寄せられている。

レバノン週報(2012年11月5日〜11月11日)

先月の19日に「内務治安軍総局・情報課」トップのハサン准将が爆殺されたことはその後、レバノン政治に様々な影響をもたらしている。「3月14日連合」勢力は国内治安を護るという責務を果たしていないとして、引き続きミーカーティー内閣の即時辞任を求めると共に、首相府を望む「リヤード・スルフ広場」(当オフィスから徒歩3分)においては同勢力に属する若者たちがテントを設置して抗議活動を続けている。スライマーン大統領のみならず、欧米諸国もシリアの内戦状況を中心とする不安定な地域情勢に鑑みて、レバノンにおける政治的空白を避けるのが望ましいとの立場から、ミーカーティー内閣が辞任する前に3月14日連合と「3月8日連合」勢力との間で後継内閣に関する合意が成立することを望んでいる。だが、3月14日連合は話し合いに応じる気配を全く見せていないことから、政治的なデッドロック状態が長引くことが憂慮される状況となっている。

こうした中では、3月14日連合の後ろ盾であるサウジアラビアと、3月8日連合の後ろ盾であるイランやシリアといった、地域大国による介入が期待されるところであるが、サウジアラビア以外の両国は核開発を巡る問題(イラン)や反体制勢力との内戦(シリア)といった事情により、レバノン情勢に介入する余裕がないのが実情である。そこで、11月7日になって、エジプトが仲介の労を取る意向があることを明らかにしたが、同国は3月8日連合と3月14日連合のどちらとも深い関係を有していないことから、その影響力は疑問視されるところである。

なお、ハサン准将爆殺事件が発生した直後の3月14日連合サイドによる抗議活動において、とりわけ同准将が属していたスンナ派の若者が首都ベイルートと南部レバノンを結ぶ高速道路を封鎖したが、3月8日連合に属するシーア派組織「ヒズブッラー」は自らの支配地域である南部と首都との交通が遮断されたことから、このことに神経を尖らせている。ヒズブッラーが、今後同様な事態が生じた場合に、同組織を中心とする武装要員が武力を用いてでも道路を開通させるとの決意を明らかにしたことからも、3月8日連合と3月14日連合の対立関係が和らぐ兆しは見えていないのが現状である。

レバノン週報(2012年10月29日〜11月4日)

先々週の10月19日に「内務治安軍総局・情報課」トップのハサン准将が爆殺されたことにより、「3月14日連合」勢力がミーカーティー内閣の辞任を求めていることはこれまでのレポートで触れてきた通りである。こうした中でスライマーン大統領は国内の安定に鑑みて政治的空白を避けたい意向を持っており、故にミーカーティー首相に対しては後継首相に関する合意が成立するまで現職に留まることを望んでいる。と同時に、シリア情勢を巡ってレバノンの国論が二分されていることや、来年夏に国会議員選挙を控えていることから、「挙国一致内閣」の樹立をスライマーン大統領は目指している。だが、3月14日連合が「挙国一致内閣」の必要性は認めてはいるものの、ミーカーティー首相の辞任が先であるとの立場を崩していないことから、政治的なデッドロック状態が生じているのが現状である。

他方で、かつては3月14日連合に所属しながらも、2009年の国会議員選挙後に同連合から離脱していたジュンブラート「進歩社会主義党」党首は最近、アサド政権に対する批判を強めると共に、「反アサド」の立場を取るハリーリー前首相との関係を改善してきている。

ジュンブラートが「親アサド」の「3月8日連合」勢力主体のミーカーティー内閣に閣僚を送り込んでいることから、3月14日連合を率いるハリーリーはジュンブラートに閣僚引き揚げを要請している。だが、ジュンブラートは国内の安定を重視する立場を表明していることからハリーリーの要求に応えるわけにはいかず、両者が以前のような蜜月関係を今後再構築出来るかどうかは、来年夏に選挙戦を控えていることからもレバノン国内において関心を集めている。

なお、11月4日にはかつての宗主国であるフランスのオランド大統領がサウジアラビアのジェッダを訪問する前にベイルートに立ち寄り、スライマーン大統領と会談した。レバノンの安定に向けて尽力している同大統領に対する支持を明確に打ち出す一方、ハサン准将の殺害事件解明に向けてフランスが協力していく意向を明らかにした。レバノンの司法当局による捜査の進展が捗捗しくない中、フランスが今後具体的に関与するのかどうか注目されよう。

※ 写真:2012年10月撮影
ベイルートの海岸通りにおける休日風景。多くの人が散歩を楽しんでいる。

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