2012年8月

レバノン週報(2012年8月27日〜9月2日)

今週も暑い日が続いている中、レバノン情勢はシリアにおける内戦の影響を引き続き受けている。

さて、シリア北部の都市アレッポで5月22日に誘拐された、イランでの参詣を終えて帰途に就いていたシーア派レバノン人11名に関しては、その内の1名が先週末に釈放されたものの、残り10名の人質釈放に向けた動きは進展していない模様である。シャルビル内務相は8月30日に、解放に向けた努力が継続されている旨言明したが、実行犯のシリア反体制派武装勢力「自由シリア軍」との関係が深いトルコ政府側が27日に、影響力行使の限界を認める発言をしていることから、解決には今しばらくの時間を要することであろう。

ところで、北部の都市トリポリにおける宗派対立は今週に入ってから、一応の収まりを見せている。しかしながら、レバノンの二大政治勢力である「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力が、シリア情勢への対応を巡り対立している中、「反アサド」を掲げる3月14日連合サイドは今週に入ってから、新たな行動に乗り出した。欧米諸国などがこれまでに、各国駐在のシリア大使を国外退去処分にしてきた動きに呼応するかのように、3月14日連合は8月29日に、駐レバノン・シリア大使(アリー・アブドゥル・カリーム・アリー)の追放を求める街頭抗議活動に着手したのである。更に8月31日には、「反アサド」の姿勢を最近鮮明にしているジュンブラート率いる「進歩社会主義者党」のメンバーが、アリー大使追放のデモを行うに至った。現在のところ、若者中心でせいぜい数百人程度の規模であることから、「親アサド」の3月8日連合サイドや、アリー大使本人はこうした抗議活動を深刻には受け止めていないものの、今後どのような展開を見せるのであろうか。

なお、ベイルートはトリポリの影響もあまり受けずに平穏な日々が続いているが、8月31日の朝には、西ベイルートのハムラー地区にある「シリア民族社会党」(3月8日連合所属)のオフィスを、治安部隊が包囲するという事件が発生した。前日の夜に、ハムラー地区を警戒中の治安部隊メンバーの拳銃を奪った人物がこのオフィスに逃げ込み、匿われているとの情報からなされたものであったが、シリア民族社会党サイドは、拳銃を奪った人物を引き渡すのと同時に、同党のメンバーではないとの声明を発している。詳細は不明であるが、治安部隊メンバーから拳銃が奪われるという、稀な事件が発生したことから、31日の朝には野次馬がオフィス前に群がっている状況であった。

レバノン週報(2012年8月19日〜8月26日)

レバノン第二の都市トリポリの風景。

シリア情勢の推移が気になりながら、東京で事務手続きなどをこなし、8月19日にベイルートに戻ってきた。

さて、今週は北部レバノンの都市トリポリにおける宗派対立が、これまで以上の激しさを見せると共に、収まる気配が感じられない状況となった。シリアのアサド政権がアラウィー派(シーア派の一部とされている)主体で、反体制武装勢力がスンナ派主体であることから、こうした対立構造がトリポリにおける両宗派の関係を、とりわけ本年5月以降に悪化させていた中、今週の衝突では少なくとも17名が死亡し、120名程度が負傷する事態となった。なお、レバノン国軍の展開にも拘らず、銃撃戦は依然として散発的に続いている模様であるが、幸いにもトリポリにおける対立の影響は、ベイルートでは今のところ表立って見られていないことから、厳しい残暑以外は快適な暮らしを続けている。

ところで、イランでの参詣を終えて帰途に就いていたシーア派レバノン人11名が、シリア北部の都市アレッポで5月22日に誘拐された事件に関しては、その内の1人が今週末に、トルコの仲介により釈放されるに至った。しかしながら、残り10名の人質の釈放に関しては、レバノンのシャルビル内務相は楽観的な見通しを表明しているものの、実行犯であるシリア反体制派の武装組織「自由シリア軍」は人質解放の条件として、シーア派組織「ヒズブッラー」を率いるナスルッラー書記長に、受け入れがたい要求を突き付けている。すなわち、自由シリア軍側が、アサド政権を支持してきたことをナスルッラーが公に謝罪するように求めている一方、同書記長がこうした行動に出る可能性は限りなく低いため、人質全員の帰還には今しばらくの時間がかかると見込まれている。但し、シリア情勢、とりわけアサド政権と今後どのように関わっていくかについては、ヒズブッラー内でも見解の相違があるとされ、ナスルッラーは同政権と最後まで同盟関係を維持していく意向はないという見方も出ている。

※ 写真:2012年3月撮影
レバノン第二の都市トリポリの風景。遠くには地中海が見える。

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