2012年4月

レバノン週報(2012年4月23日〜4月29日)

フェニキア時代の遺跡で名高いビブロスの街並み。

先週のリポートにおいて、ジュンブラート「進歩社会主義者党」党首のサウジアラビア訪問について触れたが、リヤド滞在中にはファイサル殿下・外相と公式会談を、アブドゥッラー国王とは非公式会談をした模様であり、同党首は4月24日にレバノンへ戻ってきた。他方、昨年1月の「3月14日連合」勢力主体のハリーリー内閣の崩壊後に、ジュンブラートが「3月8日連合」勢力主体の現ミーカーティー内閣の成立に協力して以来、顔を合わせていないハリーリー前首相との会談は実現しなかった。最近の「反アサド」の言動を通じ、かつて所属していた3月14日連合との足並みを再び揃えてきているジュンブラートではあるが、アサド政権の先行きが不透明であることから、「風見鶏」らしく同連合への完全復帰には様子見といったところであろう。

結局、ジュンブラートが今回の訪問に息子のタイムールを帯同したことから、サウジ王室へのお披露目がメインであったように思われるが、昨年1月時点の彼の行動によって生じた、ハリーリーの後ろ盾であるサウジ王室との関係悪化には終止符を打ったようである。なお、本年1月にフランスでスキー事故を起こして以来、未だにリヤドで療養中のハリーリーは4月26日に、リベリアのテイラー元大統領に対する国際刑事裁判所の訴追が、アサド大統領が将来的に同じ道を歩むことになるという意味において、シリア国民を励ますであろう、とツイッターを通じて発言した。

ところで、レバノン国軍は4月27日に、シリアの反体制派に向けた武器を輸送していたとされるシエラレオネ船籍の貨物船をレバノン領海内で捕獲し、翌日にベイルートの軍施設に入港させた(本来の目的地はレバノン第二の都市トリポリ)。本船の所有者はシリア人で、レバノンの船会社が運航に携わっていたとされるが、レバノンからシリアに向けて武器が流入している中、重火器を含む武器が押収された本件の捜査結果がどのようなものになるのか、注目されるところである。

※ 写真:2012年4月撮影
フェニキア時代の遺跡で名高いビブロスの街並み。
海辺には魚料理のレストランが立ち並ぶが、写真のように土産物店が立ち並ぶエリアも存在する。

レバノン週報(2012年4月16日〜4月22日)

レバノンの政治家は折に触れてシリア情勢に関する見解を述べてきているが、今週はシーア派組織「ヒズブッラー」を率いるナスルッラー書記長の発言が注目された。4月18日発行のレバノンの英字紙「デイリー・スター」は、ヒズブッラーがシリアの反体制派とコンタクトを取り、アサド大統領との対話を促したことを、ナスルッラーが17日のアサンジ(「ウィキリークス」の創始者)とのインタビューにおいて明らかにした、と報じた。ナスルッラーによれば、反体制側はこうした対話の要請を拒否したとのことであるが、シリア情勢が収まりを見せない中、アサド政権の意向を汲んでのことなのか、ヒズブッラーによる自発的な動きなのかは不明であるが、事態解決に向けて水面下でなされている動きの一つであろう。

他方、レバノン政府はシリア情勢に介入しないとの「中立的な」立場を表明してきているが、このことは「反アサド」を掲げる「3月14日連合」勢力から、結局のところ「親アサド」の姿勢を取っているとして批判されている。現在のミーカーティー内閣が、「親アサド」の「3月8日連合」勢力出身閣僚を軸に構成されていることを考えれば、上記の立場は当然の姿勢と言えようが、3月14日連合側は今週、シリア問題に限らずレバノン国内の電力不足といった他のイシューも含め、現内閣の政策をことさらに批判する動きを取った。この結果、4月23日から25日にかけて開催された国会の本会議では、双方の勢力から計62名の議員が発言を行い、最終日には内閣に対する信任投票が行われた事態となったが、不信任可決には至らず、ミーカーティー内閣の続行が決まった。なお、英国のバート中東・北アフリカ担当政務次官は20日にレバノン政府関係者と会談した際、レバノンのシリアに対する「不介入」の姿勢に理解を示した。

ところで、本リポートではこれまでに、ジュンブラート「進歩社会主義者党」党首のシリアに関する言動について紹介してきたが、同党首はサウジアラビアに対する公式訪問を4月22日に開始した。リヤドでは、アブドゥッラー国王ら高位の政府関係者との会談が見込まれているが、アサド政権に対する批判を行ってきているジュンブラートと、シリアの反体制派支援を公言しているサウジアラビアが、どのような話し合いを持つのか注目されるところである。

レバノン週報(2012年4月9日〜4月15日)

アンジャル村にある鱒料理で有名なレストラン風景。

レバノンでは最近、政治家やジャーナリストらが命を狙われるケースが相次いでいる。4月4日に発生した、キリスト教組織「レバノン軍団」のジャアジャア指導者に対する暗殺未遂事件に関しては治安当局筋、並びにレバノン軍団が属する「3月14日連合」勢力側が通信郵便省に通話記録の提供を求める一方、「3月8日連合」勢力側はプライバシーの問題を孕むことを理由に、それに反対していた。ジャアジャアは12日に改めて、3月8日連合に対する非難を行ったが、他方で同日夜には通話記録を巡る対立に終止符を打つための動きが取られ、シャルビル内務相は翌13日に、通話「内容」の記録ではなく、通話「活動」の記録の提供を今後求めていく意向を明らかにした。

他方で4月14日深夜には、キリスト教組織「カターイブ党」やレバノン軍団、3月14日連合のニューズサイトなどに記事を執筆してきているムスタファー・ジュハーが、ダームール(首都ベイルートと南部レバノンの中心都市サイダーの中間地点)を車で走行中に、銃撃される事件が生じた。このジャーナリストは最近、「レバノン主権運動」という組織を設立し、レバノン国家がその領土全てに主権を及ぼすべきであるとの主張を行うのみならず、「原理主義」やホメイニーに対する痛烈な批判者であった自らの父親の著書を出版するなどしていた。従って、シーア派の宗教裁判所は彼の父親を「不信心者」とし、また彼自身を「背教者」とする布告を発していた。こうしたことから、公に武装を維持するのみならず、南部レバノンや南ベイルートといった自らの拠点においては、「国家の中の国家」を築いているシーア派組織「ヒズブッラー」の関与が第一に疑われるところであるが、シリア国内での政府側と反体制派との武力衝突に乗じ、レバノン国内にも「サラフィー主義者」(スンナ派の「原理主義者」で、初期イスラームの原則や精神への回帰を目指す思想を奉じている)が入り込んでいることから、犯人の特定は難しい状況にある。

なお、4月9日にはレバノンのテレビ局「アル=ジャディード」のカメラマンが、レバノン・シリア国境近くのレバノン領内で取材中に、銃撃を受けて死亡する事件が生じた。現場となったレバノン北部のワーディー・ハーリドには、シリア政府軍からの脱走兵が組織した「自由シリア軍」が拠点を構えているとされており、故に同政府軍は越境して自由シリア軍を中心とする反体制派との戦闘を行ってきている。この事件に関しては、3月14日連合側はシリア政府軍の仕業と見なし、ミーカーティー内閣に駐レバノン・シリア大使の召還を要求する一方、3月8日連合勢力側はレバノン政府も捜査を行うように要求している(レバノン政府は既に、シリア政府に対して真相究明を要求している)。アリー駐レバノン・シリア大使は13日に、このカメラマンの遺族を訪問して弔意を表した後、同政府軍が狙撃したとは思えない、との見解を述べたが、国境地帯では自由シリア軍やサラフィー主義者などのシリア反体制派が蠢いており、また事件発生当日も激しい戦闘状況であったことから、真相が明らかになるのには時間を要するであろう。

※ 写真:2012年4月撮影
ベイルート・ダマスカス街道からほど近いアンジャル村にある鱒料理で有名なレストラン風景。
レバノン・シリア国境までは5キロほどで、写真の山向こうはシリアである。

レバノン週報(2012年4月2日〜4月8日)

アサド政権に対して、戦闘停止などを求めた「アナン・プラン」の履行期限が迫る中、シリアでは政府側と反体制派との武力衝突がむしろ拡大し、レバノンやトルコへの避難民も急増している。こうした中、レバノン国内のニュースとして今週注目を集めたのが、キリスト教組織「レバノン軍団」のジャアジャア指導者に対する暗殺未遂事件であった。この事件は4月4日正午前に、レバノン山地県キスラワーン郡にあるジャアジャアの居宅に向けて発砲がなされた、というものであるが、同指導者は本件が、2004年以降にレバノンを震撼させてきた暗殺事件(その代表例が2005年2月に発生したラフィーク・ハリーリー爆殺事件)の再来である、との認識を披露した。

レバノンの治安当局は早速に捜査を開始したが、他方で国内の反応は政治対立の影響を受けた様相を呈している。ジャアジャア率いるレバノン軍団が属する「3月14日連合」勢力側が本事件を重く受け止めている一方、「3月8日連合」勢力側は冷ややかである。後者に属するビッリー国会議長は4月5日のジャアジャアとの電話において、暗殺を免れたことを祝したと報じられているが、3月8日連合に属するキリスト教組織「自由国民潮流」のアウン党首や、シーア派組織「ヒズブッラー」の関係者らはこの事件に関して沈黙を守っている。事実、ジャアジャアが敵対しているヒズブッラーの関与を仄めかしていることに対し、同組織に属するサーヒリー議員はレバノンの英字紙「デイリー・スター」の取材にノー・コメントであった。

なお、治安当局筋は4月6日に、通信郵便省に対して電話記録の提供を求めてきているが、同省からの返事を受領していないことを明らかにした。レバノン軍団側は、会話記録の開示がなされないならば、更なる暗殺の企てが今後起こるとの見方を披露しているが、プライバシーの問題を孕むことから、如何なる対応が取られるのか注目を集めている。

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