2011年11月

レバノン週報(2011年11月21日〜11月27日)

「南部県」の中心都市サイダーの風景。

ラフィーク・ハリーリー(R・ハリーリー)爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」に対する、同国の本年分経費(3200万ドル相当)を巡る閣内対立は、12月15日の支払い期限が迫る中、未だに解消の兆しを見せていない。7月のミーカーティー内閣正式発足時に国会承認された施政方針においては、国際決議全般に対する尊重や、R・ハリーリー事件に対する真相究明の必要性は盛り込まれたものの、レバノン特別法廷に関してはその活動を注視していく、との表現になっており、「協力」は明言されていない。レバノン特別法廷が国連安保理決議1757号に基づいて設置されていることから、1月の首相就任以来、「国際公約」遵守を明言したミーカーティーとしては、レバノン国家による経費負担の継続を強く望んでいる。

しかしながら、シーア派組織「ヒズブッラー」や「アマル運動」、キリスト教組織「自由国民潮流」などから成る「3月8日連合」勢力は、ヒズブッラー・メンバー4人がレバノン特別法廷から訴追されていることなどにより、同法廷に対する経費負担には一貫して反対してきている。

こうした中で今週初めには、レバノン特別法廷に対する経費負担が閣議決定されなかった場合、ミーカーティーが辞任するとの観測が出始め、11月24日には本人がそれを裏付ける発言を行った。これに対して、翌25日には自由国民潮流に属する閣僚9人が閣議をボイコットし、その他の閣僚5人が病気その他の理由で閣議に参加出来なかったため、閣議が成立しない事態となった(レバノン憲法第65条において、閣議の定足数が3分の2と規定されていることから、30名の閣僚を有する現内閣では20名が出席しなければ、閣議が成立しない)。この結果、来週30日に予定されていた閣議決定を前に、ミーカーティーと3月8日連合側との対立が深まっていることから、27日には、同決定が延期されるとの報道も出るに至った。

なお、11月24日にはレバノン特別法廷のマラワナ長官がレバノンを訪問し、ミーカーティーに加え、スライマーン大統領やマンスール外相らと会談した。レバノン特別法廷のユースフ報道官は同日、マルワナによるレバノン政府関係者との会談を評価する発言を行ったが、同法廷を巡る閣内対立は来週、どのような展開を見せることになろうか。

※ 写真:2011年11月撮影
「南部県」の中心都市サイダーの風景。
ベイルートから車で45分位の距離にあり、工業・漁業が盛ん。内戦後のレバノン政治経済に大きな影響力を行使してきているハリーリー家は、この町にルーツを持つ。

レバノン週報(2011年11月14日〜11月20日)

ベイルートにある米国風カフェ。

ラフィーク・ハリーリー爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」に対する同国の本年分経費(3200万ドル相当)の支払い期限が、およそ1カ月後の12月15日に迫る中、ミーカーティー首相は11月20日、内閣としての対応を早急に決定する必要性について改めて言明した。しかしながら、これまでのリポートで触れてきたように、レバノン特別法廷から自らのメンバー4人が訴追されているシーア派組織「ヒズブッラー」は、同法廷そのものの正当性を認めていないことから、レバノン側の経費負担には一貫して反対している。仮に閣議で合意がなされない場合、投票にかけられることになるが、ヒズブッラーや、同じくシーア派組織である「アマル運動」、キリスト教組織「自由国民潮流」などから成る「3月8日連合」勢力の閣僚が30名中18名を占めているので、経費負担をしない結果となることは目に見えている。

レバノン特別法廷が安保理決議で設置されていることから、下手をすると国連制裁をかけられる可能性が存在するため、ミーカーティーとしては経費負担をする方向に、何としてでも舵取りしたい模様である。

ところで、11月16日にはアラブ連盟がシリアに対し、アサド政権が反体制派に対する過酷な弾圧を続けていることを理由に、同連盟における活動資格停止処分を発効させた。この点に関してはレバノンでは未だに、12日にアラブ連盟がこの処分を決定した際に、同国代表が反対したことに関する論争が続いており、とりわけ「野党」の「3月14日連合」勢力側は、レバノン代表がシリア並びにイエメンの代表と歩調を揃えたことに対して、批判している。アサド政権は連盟による同措置も「どこ吹く風」の様相で、反体制派に対する強硬措置を取り続けているが、14日にヨルダンのアブダッラー二世国王がアラブ世界の指導者としては初めて、バッシャール・アサド(B・アサド)大統領の退陣を要求して以来、レバノンの出方に注目が集まっている。と言うのも、元々敵対しているイスラエルはさておき、反体制運動が開始されてから早い段階でアサド政権と距離を置き始めたトルコ、並びに同政権と必ずしも緊密な関係にないイラク、そして今回のヨルダンの動きにより、隣国によるシリア包囲網が着々と形成され始めているからである。レバノン・シリア国境には既に、シリア人反体制派の軍事拠点があり、時期が到来すればトルコ・シリア国境やヨルダン・シリア国境に拠点を構えている反体制派と連携して攻撃に移ると言われていることからも、国境付近の動き、並びに同地帯におけるレバノン政府軍やシリア政府軍の動きには注目していく必要があろう。

なお、11月20日の日曜日にはいつも通り、「親アサド」のデモが西ベイルートのハムラー地区で行われた。午前11時過ぎからシリア大使館前で準備が始まり、午後1時過ぎには移動し始めたが、最近にしては珍しく(いつもは裏通り)、メインのハムラー通りで行われた。このデモは情勢を反映してかなり盛り上がっていたが、他方で同日には、キリスト教勢力「カターイブ党」が、2006年11月21日に暗殺されたピエール・ジュマイイル(P・ジュマイイル)工業相(当時)に対する追悼ミサを行った。ジャアジャア「レバノン軍団」党首や、シャムウーン「自由国民党」党首などのキリスト教勢力の有力者に加え、スンナ派のシニューラ元首相など、3月14日連合の主要人物が参加した。テレビで中継を見ていたが、P・ジュマイイルの父親であるアミーン・ジュマイイル元大統領が演説の際に、列席者の一人であるコネリー米大使には特別に、英語で感謝の意を表していたのが印象的であった。

※ 写真:2011年11月撮影
ベイルートにある米国風カフェ。
レバノンにはベイルートを中心に、数多くのこうしたカフェがあり、大学生が勉強部屋代わりに使っていることが多い。

レバノン週報(2011年11月7日〜11月13日)

今週は、現在のレバノン情勢を大きく規定しているヒズブッラーやシリアの動向について様々な動きが見られた。

11月11日には、シーア派組織「ヒズブッラー」を率いるナスルッラー書記長が、同組織の「殉教者の日」を記念する集会において、ビデオ・スクリーンを通じての演説を行った(同書記長は2006年夏の「レバノン戦争」終了以来、イスラエルによる暗殺を恐れ、公の場には殆ど姿を現していない)。同組織の拠点の一つである、ベイルート南部ハーレトフレイク(通称ダーヒヤ)にて午後3時から行われた式典において、ナスルッラーは3時40分過ぎから1時間ほどスピーチを行い、イランのアフマディネジャード政権による核政策や、シリアのアサド政権による民主化勢力に対する弾圧を巡り、米国とこれら諸国との関係が悪化している中、米国、イスラエル対イラン、シリアの戦争が仮に勃発するならば、中東全域を巻き込むことになるだろう、との発言を行った。また、ヒズブッラー・メンバー4人に対する起訴状が発出されたことと相俟って、ラフィーク・ハリーリー爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」に対する敵意を、ナスルッラーが一段と高めている中、同法廷に対する同国の本年分負担経費(3200万ドル)の支払いが滞っていることに関しては、アラブ連盟や、同法廷を支持しているサウジアラビアなどのアラブ「穏健派」諸国による経費の肩代わりを、その解決策として提示した。

ところで、この集会はヒズブッラーが所持する「アル=マナール・テレビ」は勿論のこと、同じく「3月8日連合」勢力に属するシーア派組織「アマル運動」が所持する「ナショナル・ブロードキャスティング・ネットワーク」や、キリスト教組織「自由国民潮流」が所持する「オレンジ・テレビ」は元より、国営の「テレ・リバン」までが同時中継を行っていた。こうした状況に対して、現在は「野党」となっている「3月14日連合」勢力の中核組織、「未来潮流」が所持する「ムスタクバル・テレビ」は11月11日の同時間帯に、レバノン特別法廷の「裁判評議会」による聴聞会の模様を、ハーグから同時中継していた。

さて、シリアの動向に関しては、「アラブ連盟」の外相会合が11月12日に、アサド政権の反体制派への継続的な弾圧を理由に、同政権が強硬措置を改めない限り、同国の加盟国としての資格を16日から停止する、との決定を下した。この結果、13日にはアサド政権支持を誇示するデモがシリア各地で開催されたが、同日には西ベイルートのハムラー地区でも行われた。最近は毎日曜日に同地区での示威行動が見られる中、やや士気が落ちてきていた面もあったが、13日のは久しぶりに「気合の入った」ものとなった。なお、たまたま遭遇した友人によると、いつもよりもデモ自体は確かに殺気立っていたが、中国人が通りがかったと思われたらしく、同人に対する参加者の「暖かな視線」が印象的だったとのことである(中国はアサド政権を支持している)。

レバノン週報(2011年10月31日〜11月6日)

西ベイルートのハムラー地区に最近オープンした寿司店。

ラフィーク・ハリーリー(R・ハリーリー)爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」に対する経費負担を巡り、ミーカーティー内閣の閣僚間における見解の相違が解消されていないことから、同法廷に対する同国の本年分経費(3200万ドル)の支払いが滞っている。こうした中でミーカーティー首相は11月3日、英BBC放送とのインタビューにおいて、シーア派組織「ヒズブッラー」を率いているナスルッラー書記長は、閣議で決定された場合にはレバノン特別法廷に対する経費負担に反対しないだろう、と述べた。

ナスルッラーは事実10月24日に、自らの組織が運営している「アル=マナール」テレビ局で放映されたインタビューにおいて、レバノン特別法廷に対する閣内合意がなされない場合には閣内投票が行われるべきである、との見解を明らかにしているが、投票にかけられた場合には、経費負担に対する反対票が賛成票を上回ることが確実である。

というのも、先週のレポートで説明したように、ミーカーティー内閣は賛成の立場の同首相やスライマーン大統領、ジュンブラート・「進歩社会主義者党」党首の何れかと近しい閣僚が12名を占め、残りは反対の立場の「3月8日連合」勢力側と目される閣僚18名から構成されているからである。

ところで、フェルトマン米国務次官補は11月4日、レバノン側の経費負担が実行されない場合の制裁の可能性を示唆しているが、クリントン米国務長官は制裁を求めない立場との見方が出ている。この背景には、仮に制裁が実行された場合のミーカーティー内閣の崩壊や、米国に対するヒズブッラーの敵対姿勢の激化により、地域情勢が悪化することに対するクリントンの懸念が存在している模様であるが、レバノン側の経費負担が実施されない方向に事態が動いていくのか、今後注目されるところである。

なお、シリアの反体制勢力に対する武器やその他物資が、レバノンから流入していると言われている中、シリア国軍は両国の国境警備を強めている。しかしながら他方で、国境地帯には密輸で生計を立てている人々が多く存在していることから、レバノン側を中心にシリア側のこうした措置に不満の声が出ている。

※ 写真:2011年11月撮影
ベイルートのハムラー地区に最近オープンした寿司店。
店前で配布していたチラシを見ると、天麩羅や中華メニューもある模様。ベイルートには少なくとも、20軒の寿司店がある。

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