2011年10月

レバノン週報(2011年10月24日〜10月30日)

ラフィーク・ハリーリー(R・ハリーリー)爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」に対する経費負担を巡る問題は、今週も解決されることなく持ち越しとなった。ミーカーティー内閣は、同首相やスライマーン大統領、ジュンブラート・「進歩社会主義者党」党首の何れかと近しい人物が12名を占め、残りは「3月8日連合」勢力側と目される閣僚18名から構成されているが、同連合側はレバノン特別法廷そのものの正当性を認めていないことから、同法廷に対する同国の本年分経費(3200万ドル)の支払いに強く反対している。こうした中、3月8日連合の中核であり、また容疑者4名を出しているシーア派組織「ヒズブッラー」を率いるナスルッラー書記長は10月24日、レバノン特別法廷に対する敵対姿勢を改めて示した。また、3月8日連合に属するキリスト教組織「自由国民潮流」を率いるアウン党首も同日、コネリー米大使との昼食時に経費負担に反対の意向を表明した。

ナスルッラーは今のところ、経費負担を支持しているミーカーティーやスライマーン、ジュンブラートらとの見解の相違を理由にした閣僚の引き揚げや、更なる内閣の崩壊を導く意向はない模様であるが、そうしたシナリオを危惧する声は出てきている。R・ハリーリーの子息サァド・ハリーリーが率いる「3月14日連合」勢力側は、レバノン特別法廷を通じての真相究明を求めていることから、3月8日連合側の動きを批判し続けてきているが、ここにきて「欧州連合」(EU)による非難が高まっている。すなわち、フューレEU拡大担当委員は10月27日、ミーカーティーやスライマーン、ビッリー国会議長と会談した折、レバノン側の経費負担が実行されない場合の、制裁の可能性を示唆したのである。レバノン特別法廷が安保理決議1757号を基盤に設置された故、国連加盟国による制裁の可能性は想定されてきたものの、これを機に現実の動きがとなるのかどうか、注目していく必要があろう。

なお、3月14日連合と3月8日連合はレバノン特別法廷以外に、ヒズブッラーの武装やシリア情勢に関しても見解を異にしているが、3月8日連合サイドは、シリアの反体制派を「武装したギャング」と形容しているアサド政権の見解を受け入れている。シリアからレバノンへの避難民が5000人に達したと言われている中、シリア国軍が両国国境地帯に10月27日早朝、地雷を埋め込んだ、との報道がなされている。シリア人反体制派のレバノンへの流入や、同国からの反体制派に対する武器密輸を阻止するという名目でなされた模様であるが、シリア情勢に対する「中立」を標榜するミーカーティー内閣による黙認姿勢は、反体制派を支援している3月14日連合からの更なる批判を招く可能性を持っている。

レバノン週報(2011年10月17日〜10月23日)

シリアのアサド政権を支持するデモ。

今週は10月18日に、イスラエル人兵士1名とパレスチナ人受刑者477名の交換がイスラエルとハマース間でなされ、また20日にはリビアでカッザーフィー大佐が死去したが、レバノンでは両出来事を称賛する政府声明が出された以外、特に目立った動きは見られなかった。カッザーフィーが死去した翌日、馴染みの書店でレバノンの新聞をチェックしたところ、このことを大々的に取り上げていたのは英字紙(The Daily Star)のみであり、仏語紙(L’Orient Le Jour)や大方のアラビア語紙(Al-Nahar, Al-Safirなど)は、通常のトップ記事に何らかの解説や補足記事を加えた程度の扱いで、それほどの紙面を割いていなかった。また、同氏の最期の写真を詳細に掲載した新聞が非常に少なかったのは、国際紙の報道状況と比較すると、とりわけ印象的であった。

さて、レバノン国内では最近数週間ほど、ラフィーク・ハリーリー爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」に対する経費負担を巡り、ミーカーティー内閣が対応を決めかねている状況が続いている。閣内不一致故に、同特別法廷に対するレバノン側の本年分経費(3200万ドル)の支払いが滞っていることに対して、国連サイドから速やかな義務履行を要求されているが、10月18日の閣議においても本イシューが取り上げられることはなく、支払いは延期されたままとなっている。こうした中でミルザー検事総長は19日、レバノン特別法廷からの逮捕状発布(6月30日)以来3回目となる、容疑者逮捕に向けてレバノンの司法当局が取った動きに関するレポートを、同法廷に提出した。容疑者4名がシーア派組織「ヒズブッラー」のメンバーであり、また同組織から協力を得られていないことから、今回もこれまでのレポートと同様、容疑者の捕獲失敗が報告されているが、他方で国際法廷側は欠席裁判の開始に向けた準備を進めている模様である。

なお、シリア国軍がレバノン側へ時折越境し、反体制派や脱走兵の捜索を行っているとの報道が繰り返される中、シャルビル内務地方行政相は今週末、不明確な国境線がシリア国軍による領土侵犯という事態を結果として招いている、との認識を示した。確かに、両国の国境には帰属が不明確な個所が存在しているのも事実であるが、ヒズブッラーへの武器がシリアから輸送され、またレバノン・シリア国境を跨ぐ形で家族が分散しているケースが多いことから、両国軍が意図的に国境を厳密に警備していない事実も存在している。

※ 写真:2011年10月撮影
西ベイルートの中心街「ハムラー地区」で行われた、シリアのアサド政権を支持するデモ。
最近は毎週日曜日ごとに行われているが、規模が縮小してきているのが現状。

レバノン週報(2011年10月10日〜10月16日)

レバノン料理のレストランで供されたルッコラのサラダ。

今週も引き続き、ラフィーク・ハリーリー爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」に対する経費負担の続行問題が、ミーカーティー内閣の最重要イシューになっている中、シリア情勢も様々な形でレバノンに影響を与え続けている。

一つには、10月13日にもシリア国軍がレバノン側へ越境し、ビカア地方で掃討作戦を展開したとされているが、これに対してはレバノン国軍が作戦自体を否定する発言を行った。反体制勢力に対するアサド政権の厳しい対応が続く中、彼らの一部がレバノン側に逃れているとされ、シリア国軍による越境追跡が時折行われているが、シリア内政に対する「不干渉」の立場を貫いているミーカーティー内閣は、黙認の姿勢を維持している。

また、シリア人反体制派人物がレバノン内で、在ベイルート在住シリア大使館関係者によって誘拐されたとの報道が出ている。「内務治安軍総局」トップであるリーフィー少将が10月13日に、レバノン国会の委員会で証言した内容によると、少なくとも4人のシリア人反体制派がこれまでに誘拐され、その際には同総局のメンバーも関与したとのことである。シリア大使館側は15日に証拠を求める声明を発したが、反体制側を支援している「野党」の「3月14日連合」勢力からは、シリア国軍の越境作戦と共に、本件も問題視されている。

他方で、レバノン国軍は10月14日に、シリアに向けて武器を密輸していたトラックを差し止めたとのことであるが、同日には「シリア・レバノン合同軍事委員会」が開催され、密輸取締りの方策が話し合われたばかりであった。シリアの反体制勢力に対する武器密輸には、3月14日連合側が関わっているとの報道がこれまでに繰り返しなされ、また反体制側全てが「平和的な」手法で抗議活動に携わっているわけではないことから、今後もこうした報道は出てこよう。

※ 写真:2011年10月撮影
レバノン料理のレストランで供されたルッコラのサラダ。
ルッコラそのものが「突出し」として、赤カブやオリーブの実と共に供されることもある。

レバノン週報(2011年10月3日〜10月9日)

レバノンにおける代表的なサラダである「ファットゥーシュ」。

現在のミーカーティー内閣は、シーア派組織「ヒズブッラー」主導の「3月8日連合」勢力に属する閣僚を軸に構成されている。こうした中、場合によっては同内閣の存続を危うくするイシューが、ラフィーク・ハリーリー(R・ハリーリー)爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」に対する、レバノン政府の経費負担を巡る問題である。と言うのも、同法廷の設置を決定した安保理決議1757号が、レバノン側の年間経費負担は当該年における総額の49%と規定している中、2011年の負担額3200万ドルに関して、閣内不一致が存在するからである。事実、ヒズブッラーは自らのメンバーが起訴されたのみならず、レバノン特別法廷の存在自体の正当性を一貫して否定していることから、経費支出に強く反対している状況である。

対する「野党」の「3月14日連合」勢力は、R・ハリーリーの子息サァド・ハリーリー(S・ハリーリー)前首相を中核人物としていることから、レバノン特別法廷を通じての真相究明を求めている。10月4日には、3月14日連合内の主要組織である、S・ハリーリー率いる「未来潮流」サイドが声明を発出したが、経費負担は閣議の議題とすべきではなく、支払うのが当然、との立場を改めて表明した。

こうした中、ミーカーティーは支払いの意向を繰り返し表明し、ヒズブッラー出身閣僚に対する説得も続けているが、その結果は捗捗しくない模様である。また、2006年2月以来、ヒズブッラーとの同盟関係を維持しているアウン・「自由国民潮流」党首も、支出には反対の意向を繰り返し表明している。ミーカーティーは今後も、レバノン特別法廷との関係を維持していくと思われるが、他方で3月8日連合側は18名の閣僚を有することから、閣僚引き上げによる内閣崩壊という脅しを使うことが、法的に可能な状況である。

なお、シリアではアサド政権が反体制側に対する厳しい対応を取ってきているが、10月4日と6日の両日には、シリア国軍がレバノン側へ越境し、ビカア地方で掃討作戦を展開した。ミーカーティー内閣はシリア内政に対する「不干渉」の立場を貫いていることから、表立った抗議を行っていない模様であるが、このことは反体制側を支持している3月14日連合からの非難を招いている。シリアにおける相対立する勢力を支持している3月8日連合と3月14日連合が、現時点でも大規模な街頭示威行動を自粛している中、10月9日には西ベイルートにあるハムラー地区で、小規模な示威行動が見られた。午後1時半過ぎ、ヒズブッラーや「シリア民族社会主義者党」の旗を掲げた1台の車が、ハムラー地区の裏通りを走行し、その後3時過ぎからは、数台の車が西ベイルートのメインストリートであるハムラー通りを走行した。10月4日の国連安保理公式会合において、シリア非難決議案に拒否権を行使したロシアと中国の旗も車列に掲げられたことから、カラフルな装いであった。最初の経験から、2回目も筆者宅前の裏通りを通過すると思っており、今度は写真を取るべく待ち構えていたが、2ブロック先の十字路からハムラー通りに向かってしまった。そのため、ベランダから首を捻って何とか観察することは出来たものの、ロシアと中国の旗が入った写真を撮れなかったのは、残念であった。

※ 写真:2011年10月撮影
レバノンにおける代表的なサラダである「ファットゥーシュ」。
トマトやキュウリ、レタスや玉葱を刻み、カリカリに焼いたフブズ(アラブ風のパン)の砕いたものを加え、レモン汁とオリーブ油で味付けをする。

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