2011年8月

レバノン週報(2011年8月27日〜9月4日)

西ベイルートのハムラー地区にある「カフェ・ブラン」で供されたデザート。

8月27日にベイルートに戻ってきたが、一時帰国前の猛暑は影を潜めており、やや秋の気配を感じることが出来た。

さて、レバノンでは8月29日にラマダーンが明けたが、隣国シリアにおいてはアサド政権による反体制勢力への弾圧が依然として続いており、レバノンの二大政治勢力である「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力がそれぞれ、「親アサド」、「反アサド」の姿勢を鮮明にしていることから、国内情勢に与える影響が懸念されている。今のところ、両勢力支持者同士の大きな衝突は発生しておらず、双方に属する政治組織の指導者たちが声明を発するに留まっている。

今週は29日に、3月14日連合の中心人物であり、またスンナ派組織「未来潮流」を率いるサァド・ハリーリー(S・ハリーリー)前首相が、シリアの反体制勢力を支援する声明を発出し、他方で31日には、3月8日連合に属するシーア派組織「アマル運動」の指導者でもあるビッリー国会議長が、シリアの反体制運動は「外国の陰謀」によるもの、との見解を発表した。なお、北部の都市トリポリでは、ラマダーン期間中は中止されていた「反アサド」の金曜デモが9月2日に復活し、数百人が参加した。

3月8日連合と3月14日連合の対立争点としてはシリア情勢以外に、前者に属するシーア派組織「ヒズブッラー」の武装や、ラフィーク・ハリーリー元首相(S・ハリーリーの父)爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」などが存在するが、ミーカーティー首相は9月に入って、同法廷に関して注目すべき発言を行った。すなわち、2日に発行された汎アラブ紙「ハヤート」とのインタビューにおいて、レバノン特別法廷の経費の内、本年のレバノン側の負担金とされている6500万ドルを支払う意向である、と述べたのである。レバノン特別法廷に対する経費支出に関しては、メンバーが起訴されたこともあり、ヒズブッラーが一貫して反対してきていることから、同組織出身閣僚を含むミーカーティー内閣の対応が注目されてきていた。ミーカーティーとしては今回、支出の意向を明らかにしたが、同首相のこうした言動が内閣の一体性にどのような影響を与えるのか、注目されるところである。

※ 写真:2011年8月撮影
西ベイルートのハムラー地区にある「カフェ・ブラン」で供されたデザート。
最近オープンしたカフェであることから、デザートも写真のように、ムースにブルーベリー・ソースを添えたようなオシャレなメニューが目立つ。

レバノン週報(2011年8月1日〜8月7日)

ダウンタウンにあるカフェ 「エトワール」でしばしば供される 「コフタ・ダーウード・バシャ」

今週は一時帰国するため、8月12日にベイルートを離れるので同日までのレポートとなる。

先週に引き続き、今週もシリアのアサド政権が反体制勢力に対する弾圧を続けている中、レバノンでも呼応する動きが見られた。8月8日夜には、アサド政権のこうした対応に抗議するレバノン人やシリア人ら800人ほどが、ベイルート中心部にある「殉教者広場」に集まった。自宅で見ていたアラブの衛星放送「アル・ジャジーラ」の中継によると、レバノンの知識人らが数多く参加していたとのことであるが、途中で「親アサド」のスタンスを取る若者数名がシリア国旗を掲げて集会に乱入してきたため、同放送の中継は中断に追い込まれた。しかしながら、警備が厳しかったこともあり、その後大事には至らなかった。

このようなシリア国内の対立状況は、レバノン国内における「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力がそれぞれ、「親アサド」と「反アサド」のスタンスを取っていることから、両者の対立関係に影響を及ぼす一要因となっている。とりわけ、3月8日連合に属するシーア派組織「ヒズブッラー」は、3月14日連合に属するスンナ派組織「未来潮流」が、シリアの反体制勢力に武器を密輸しているとの批判を行ってきている。こうした中でレバノンの治安当局は8月8日、武器密輸を試みようとしたケースが少数ながら発生していることは認めたものの、レバノンのいかなる政治組織も関与していない、との見解を発表した。

他方でレバノンの司法当局は8月9日、ラフィーク・ハリーリー元首相爆殺事件を審理している「レバノン特別法廷」に対して、容疑者の逮捕に向けて7月中に取った動きを報告した。容疑者とされている4名がヒズブッラーのメンバーであることから、同組織の拠点である南ベイルートなど、様々な場所を警察が捜索してきたが、結論から言えば容疑者を誰一人捕獲することが出来なかった。レバノン特別法廷側は翌10日に、レバノン側の更なる協力を要請する声明を発出したが、さて今後の展開はどのようなものになろうか。

※ 写真:2011年8月撮影
お昼の定食メニューとして、ダウンタウンにあるカフェ 「エトワール」でしばしば供される 「コフタ・ダーウード・バシャ」。
肉団子のトマト煮といったところであるが、アラブ世界ではポピュラーな料理の一つ。

レバノン週報(2011年5月30日〜6月5日)

西ベイルートにあるベイルート・アメリカン大学(通称AUB)正門。

レバノンでも8月1日からラマダーン(断食月)に入ったが、隣国シリアでは、アサド政権が反体制勢力に対する攻勢を一層強めている。こうした中で、外国人ジャーナリストがシリアに入国し、自由に報道することが基本的には不可能な事態が続いていることから、BBCなどもベイルートからの報道を行っている。同放送のベテラン・ジャーナリストであるJim Muir(1975年から15年続いたレバノン内戦時から、同国やシリアの情勢を報道)も、今週はベイルートに滞在しての報道を続けており、3月半ばから続いているシリアの反乱状況に対し、国際的な関心が一層高まっている状況となっている。

レバノンは既に、シリアからの避難民を約2000人程度受け入れているが、国内で対立関係にある二大政治勢力の「3月14日連合」勢力と「3月8日連合」勢力は対外的にはそれぞれ、「反シリア」、「親シリア」のスタンスを取っている。8月3日には、アサド政権の反体制勢力に対する対応を非難する旨の安保理議長声明が出されたが、安保理において現在、非常任理事国の立場にあるレバノンは同声明に同調しなかった。3月8日連合を主体とする現ミーカーティー内閣は、シリア情勢に対して内政不干渉の立場を取っていることを理由に、安保理における上記の対応を決定したが、他方で野党の3月14日連合側は現内閣のこうした政策に対して、非難を強めている。なお、これまでもベイルート市内では時折、「反アサド」、「親アサド」のデモが行われてきているが、2日には、西ベイルートのハムラー地区にあるシリア大使館前で両者が衝突し、数名が負傷した模様である。筆者は日曜日を除き、同大使館前を通過して職場へ通勤しているが、事件が起きたのが夜半から未明だったため、近辺の自宅にいても全く気付かない有り様であった。

他方で、アサド政権に対する国際的な非難が高まっていることから、同政権が批判の眼を逸らす為に、関係の深いヒズブッラーをけしかけ(或いはヒズブッラーが「自発的に」動き)、その結果としてレバノン・イスラエル国境が緊張するとの公算が語られている。しかしながら、8月1日に同国境でレバノン国軍とイスラエル国軍が短時間交戦した原因は、後者が両国の停戦ラインである「ブルー・ライン」を超え、レバノン側に70メートルほど立ち入った結果であった。イスラエルはシリア情勢そのもの、さらにはレバノン情勢に与える影響について、これまで以上に神経質になっていると想定されることから、「意図せざるエスカレーション」が発生しやすい環境が出現しており、今後の展開に一層注視していきたい。

※ 写真:2011年8月撮影
西ベイルートにあるベイルート・アメリカン大学(通称AUB)正門。
レバノンの有力政治家や実業家の多くがここを卒業し、ホッス元首相やシニオーラ元首相も卒業生として名を連ねる。

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