2011年4月

レバノン週報(2011年4月4日〜4月10日)

ミーカーティーは1月25日の首相任命以来、「3月8日連合」勢力を軸とする新内閣の樹立に向け、各政治勢力の指導者らと調整を図ってきた。この結果、4月10日には大枠の合意が成立し、定員30人とされる新内閣における閣僚ポスト数の配分は、アウン党首率いるキリスト教勢力「自由国民潮流」が10、シーア派勢力である「ヒズブッラー」や「アマル運動」などが9、スライマーン大統領やミーカーティー首相、及びドゥルーズ派勢力である「進歩社会主義者党」が11となった。今後、この割り振りを軸に、具体的な閣僚の人選が進められることになるが、さてどのようなものになろうか。

他方で今週は、「3月14日連合」勢力の中心人物であるサァド・ハリーリー暫定首相と、3月8日連合の中軸組織であるヒズブッラーとの間で、レバノンにおけるイランの役割に関する非難合戦が展開された。サァド・ハリーリーはイランがレバノンに「内政干渉」をしていると非難したが、他方でイランを重要な「後ろ盾」とするヒズブッラーは「イランを孤立させようとするイスラエル、及び米国の立場を反映している」、としてサァド・ハリーリーを非難した。こうした中で、2005年以来、総額7億2000万ドルに及ぶ軍事援助を行い、かつオバマ大統領が2011年における1億ドルの追加援助を既に約束していた米国は、3月8日勢力を中心とする政権樹立を見据え、レバノンに対する軍事支援を見直す意向を有しているようである。その場合、既に軍事援助の意向を表明しているイランが米国に取って代わり、引いてはレバノンにおける更に影響力を強めることが想定されることから、サァド・ハリーリーはイランによる対レバノン「内政干渉」という「古臭い」問題を敢えて持ち出すことで、軍事援助見直しがもたらす意味合いを米国に再考させたかったように思われる。

レバノン週報(2011年4月11日〜4月17日)

ミーカーティー次期首相率いる新内閣に加わる予定の政治勢力による、閣僚ポスト数の配分合意は4月10日になされたが、その後も樹立プロセスは具体的な閣僚ポストの割り当てや人選を巡り、難航しているようである。とりわけ、キリスト教勢力の「自由国民潮流」を率いるアウン党首による、内務地方行政大臣のポストに対する要求が最大の阻害要因とされており、同党首はミーカーティーに対する批判も強めているが、次期首相側は今週、降板する意向がないことを改めて言明した。

このように新内閣が樹立されない状況が続いている中、シリアの国営テレビは、同国における反体制運動に関与した疑いで拘束した「テロリスト」の告白として、スンナ派の「未来潮流」勢力に属するジャッラーフ議員が、シリアの反政府勢力に武器と資金を提供している、と報じた。ジャッラーフは4月13日に報道内容を否定したが、翌14日には駐レバノン・シリア大使が、同議員に対する訴追を検討する、との声明を発した。同議員が「反シリア」の未来潮流に属する上に、同国に近い西ビカーア郡出身であり、また同国の反政府勢力がスンナ派を軸にすると言われていることから、真偽は定かではないが、ありそうな話ではある。

なお、シリアにおいて反政府運動が続いていることから、シリア側が対レバノン国境における審査を強化した結果、両国間の物資輸送に支障が発生し、野菜や果物の供給をシリアに依存しているレバノンでは品不足の懸念が生じている。このように、これまでシリア大使館前を中心とする「親アサド」の小規模デモ以外、特に影響を受けてこなかったレバノンであるが、徐々にいろいろな影響を受け始めており、今後の展開に注視したい。

レバノン週報(4月18日〜4月24日)

ミーカーティー次期首相は新内閣樹立に向け、「3月8日連合」勢力に属する政治組織を軸に、多くの会合を積み重ねているが、今週末のイースター前の形成は実現しなかった。各ポストの具体的な割り振りや人選がこれからといった様相の中、スライマーン大統領とアウン「自由国民潮流」勢力指導者との、内務地方行政大臣のポストを巡る対立は、まだまだ続きそうである。スライマーンは、自らの「側近」とも言えるバールード暫定内務地方行政大臣の留任希望を取り下げたが、アウンとの間で合意可能な人物がいるかどうか、定かではない。更に、アウンはスライマーンが内閣に自らの「側近」や「派閥」を持つことに、内心は反対なため、スライマーンとの今後の協議がスムーズに進む保証もない。他方でミーカーティーは、スライマーンが「側近」や「派閥」を通じた形で、内閣における一定の影響力を持つことに賛成である。

このようなスライマーンとアウンの対立が、キリスト教マロン派内における政治的な分裂状況の一面と見なされる中、ラーイー総大司教は4月19日、同派内における政治対立の解消を目指した会合を、「総本山」であるブキルキーで開催するに至った。すなわち、「3月14日連合」勢力に属するジュマイイル・「カターイブ党」党首、ジャアジャア・「レバノン軍団」党首に加え、3月8日連合に属するアウン、フランジーヤ・「マラダ潮流」党首といった、マロン派における主要政治勢力の領袖が一堂に会し、今後も必要があれば会合を持つことが合意されたのである。この背景には、レバノンにおける三大宗派であるマロン派、スンナ派、シーア派において、大枠で見るとスンナ派が3月14日連合支持で、シーア派が3月8日連合支持と言えるのに対して、マロン派の両陣営への分裂状況は明らかであり、故に「宗派政治」が展開するレバノンにおいて、マロン派としての政治的立場の悪化が、ここ数年同派内で懸念されてきたことが存在した。シーア派組織「ヒズブッラー」の武装問題や、ラフィーク・ハリーリー爆殺事件を取り扱っている「レバノン特別法廷」に関する両陣営の見解の相違は大きいが、宗教的な行事で幾度となく顔を合わせても、儀礼的な挨拶で終わることが通例だったこれら指導者たちが、一堂に会したことはマロン派としての危機感を現すものであると同時に、宗派としての政治的一体感を取り戻す出発点ともなろう。

なお、スンナ派の「未来潮流」勢力に属するジャッラーフ議員が、シリアの反体制勢力に武器と資金を提供している、と先週に同国で報じられた問題に関しては、ヒズブッラー側が4月18日、同議員に対する訴訟を要求した。ジャッラーフがシリア情勢に対する関与を否定する中、19日には駐レバノン・シリア大使が、ジャッラーフに対して法的措置を取るようにレバノンの司法当局に要請し、これに対して未来潮流側が同大使の召喚要求を主張するなど、双方の言動がエスカレートしていることから、「微妙な安定」を保ってきているレバノン情勢にマイナスの影響をもたらさないか、懸念されるところである。

レバノン週報(4月25日〜5月1日)

イースター休暇をロンドンで過したミーカーティー次期首相は4月25日の帰国後、内閣樹立に向けて、「3月8日連合」勢力に属する政治組織の指導者らを中心とする協議を再開した。しかしながら、今週も組閣は延期されてしまい、内務地方行政大臣のポストを巡ってスライマーン大統領と対立関係にあることが、組閣を遅らせているとの非難に晒されているアウン「自由国民潮流」党首は、ミーカーティーに対する批判を強めている。アウンは26日に、ミーカーティーは組閣の意思を持たない、と非難したが、他方でフッス元首相は29日、ミーカーティーが組閣に際して直面している課題を明らかにしていない、との発言を行った。

このように、新内閣が1月後半以来、3か月経っても樹立されていないことは、官僚組織が機能しないことなど、国内政治上の問題を引き起こしているのみならず、外交にとっても足枷となる状況をもたらしている。シリアのアサド政権が反体制勢力に対する弾圧を強めている中、シャーミー暫定外務大臣がサラーム駐国連大使に対し、国連安保理によるシリア非難の動きに同調しないように、との指示を4月26日に出したと報じられている。しかしながら、同暫定大臣によるこうした指示は、内閣は辞任後には事務管理の限られた職務を除いて権限行使を出来ない、との憲法第64条の規定に抵触する可能性があるため、安保理での議論が今後進むと想定される中で、シリアの隣国であり、かつ歴史的に強い結びつきを有するレバノンが、国家としての立場を国際社会に表明出来ないことが今後生じる可能性が出てきている。こうした状況こそ、レバノンの分裂状態を端的に表すものはないと言えようが、シリアにおける対立状況がレバノン政治にもたらす影響については、今後も注視していく必要があろう。

特に、アサド政権がシーア派の一派とされるアラウィー派を基盤とし、反体制勢力がスンナ派を軸とするとされていることは、シーア派組織「ヒズブッラー」の武装問題や、ラフィーク・ハリーリー爆殺事件を取り扱っている「レバノン特別法廷」に関して既に対立している、レバノンのスンナ派とシーア派の関係を更に悪化させる可能性を有している。他方で、レバノン経済がシリアに依存していることや、4月28日にはシリア人が数百人単位でレバノン北部に避難してきた、といった事象も存在することから、政治面のみならず、経済・人的面からも観察を続けていきたい。

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